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皺だらけの手。
けれど暖かいその手は、たった唯一の―――
忠誠を誓ったのは彼の人のみ。
あの暖かい手を持つ彼の人だけに捧げた命。
彼の人に使われるならば厭いはしない。
下された命ならば、総て全うしよう。
彼の人の為ならば、今更この身が血に塗れようとも・・・。
暖かいあの手が撫ぜてくれるのならば。
―――アナタの望みを叶えさせてください―――
出会いは何時だって唐突。
時が経つのは案外早い。されど過ぎ行く時間は遅くて。
今日も庸として過ぎた帰り道。
奈良家が管理する土地の一つ、放牧用の山の麓で、シカマルがだるそうに鹿達を囲い小屋の奥へと追いやって鍵を閉めれば本日これにて終了。家業を幼いながらもやり終えたその帰り道。
ふっと気が付けば舞い落ちる黄金の、何と美しきことか。
幼いながらも見惚れてしまう、自然の紡ぎだす芸術に、シカマルはその光景に風が止むまで魅入っていた。
紅に色付いた木の葉と、黄金に萌ゆる木の葉のコントラスト。降り注ぐ白き光を反射して、風に舞う木の葉の一枚一枚が、次に来る季節の齎す雪の降る様を髣髴とさせるのに、何故其れより鮮烈で儚いのだろうか。
煌く黄金に目を細めて魅入っていれば、舞い散る風に踊る木の葉の先に、もう一つ煌くモノが視界を掠めた。
映ったものが何であるのか不意に好奇心が疼き、渦巻く黄金の中、カサカサと乾いた音を立てて耳の脇を通り過ぎる木の葉音に黄金の幻を見る。
されど望みを果たすべく舞い散る木の葉を越えて手を伸ばしてみれば。
そこには。
黄金に煌く髪を持つ、影が居た―――
「オマエ、誰だ?」
最悪、敵だったのならば・・いや、暗部にでもなのだが、殺されるかもしれないなんて考えはこの時に考えも付かず。
シカマルが思ったまま口にした言葉に影は・・・髪の毛だけは鮮麗に黄金に煌くというのに、密やかなるその人は、何も答えず反応しなかった。
影がそのまま立体化したように密やかに佇む様はまさしく"影"―――服装が全身黒尽くめなのは忍びたるもの、標準装備なれど、生きている気配がまるで感じられないその人に、シカマルは幼いながら本能的に"影"だと思ったのだ。・・は、何をするでもなく、木々の伸びた陰の如くそこに佇むだけで。
黄金が見せる幻がまだ続いているのか?
「・・・っ?!」
ちらり、と影の顔が動いて、向けられた視線にビクリ、と反応してしまう。
そこにあったのは、シカマルの好きな空。
なのに、映し出された瞬間に感じた恐怖。
瞬間、雁字搦めに全ての自由を奪われたシカマルだが、"影"はシカマルを見遣っただけで台詞は勿論、音もなく大地へ向かう木の葉が反す太陽の光の光の如く一瞬にてその姿はなくなっていた。
この僅かなる会合。
だが齎されたこの出会いは、"影"と出合った記憶は鮮明にシカマルの脳に焼きつき―――けれど見たはずなのに覚えていない表情の中、ビー玉のような蒼に煌く黄金。そこに混じった紅が萌える紅葉の様に鮮烈で。
シカマルはずっと忘れられないで居た――――