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ぴくり。
まず、力なく地面に落ちていた指が少しだけ反応した。
そして、ゆっくりと、連なる掌が、腕が。
血反吐に塗れた幼い体躯が、ゆっくりと。
―――暴力を揮っていた者達は去ったようだ。
子供は、大地に打ち捨てられた状態で解放されたらしい。まるで道端に死んだ獣のように誰もが遠巻きに、見ないように。
誰かが狐を仕留めたとでも言ったのだろうか?この裏通りは、一つ曲がれば商店街に出れる近さだというのに関わらず、意外に人通りは少ない。しかし、少ないとはいえ皆無ではないのだが。
子供が倒れている以外に、誰も。・・・誰の姿もなかった。
ナルトは、誰も居ない事を知っているかのようにその状態からゆっくりと半身を起こし、小さく頭振る。
利き腕が動く事を確認するように少し猫背気味に俯いている己の前髪を梳いて、流れる髪に反するように前を見据えるその瞳は何を映すのか。
「そこの。」
口端にも殴られた痕が見える、小さな口が初めて、声を発した。
暴力を受けている時には一切聞けなかった、幼い声。
澄んだ、・・・そう、まるで鈴の鳴るような、という表現に相応しい高い、幼いながらに凛とした声が、呼びかける。
「そこの、小さき者。」
その声にどこかでぴくりと反応した気配が伝わってきた。
「去れ。そしてこの事は忘れよ・・・・。」
独り言のように、詠う様に。
とても4歳になる子供が使う言葉ではなかったのだが、いや、口調も子供のものであるとはとても言い切れないのだが、何故だろう。
前を見据えて、誰にともなしに発せられる、声が。
酷く、胸を打つ。
「忘れよ・・・・・・」
途端に聞こえてきた足音。
ばたばたと、足音が軒並みに紛れるように遠ざかっていく、その音は。
とても軽く、前を見据えたままのナルトと同じ位の体格の。同じような年頃の、子供の足音だと。
彼は気付いていた?
やがて聞こえなくなった足音に、ナルトは立ち上がる。
まるで何もなかったように。
暴力の痕など一切なかったが如く。
彼は、足音も立てずに、静かに。
静かに。
その場から、元から何もなかったように居なくなった。