闇宴




祭りだ。
祭りだ。
ああ目出度い。
今宵は祭りだ。
さあさ、皆の衆。今宵はみなみな踊り明かそうではないか





 *******





木の葉の里を覆う異様な雰囲気。
里はとうに廃れ、家々の玄関はぴっしりと閉じられたまま。野良犬さえもうろつかない。

「うああああ!!!!」
「違う違う!!!!!!」
「助けてくれ!!!!!!!」

人々は、口々に違うと、助けて、と叫ぶ。
時折聞こえる声に、誰もが耳を塞ぎ、布団に包まってやり過ごすしか、生き延びる手腕がなかった―――


次々と悪夢にうなされる者達が出始めた頃、魘される姿を否応が為しに見てしまう里人は次は自分ではないかと怯え、どうして、と原因を探った。
「どうしてこんな事になったの?」
「どうしてこんな目に遭わなければいけないの?」
「どうして、どうして!!!」
それでも原因がわからない恐怖は、疑心を呼び起こし。
「お前か!!」
「お前だろう?!!」
「お前の所為だ!!!」
罪なき者を次々と襲い、次の犠牲者に選ばれるのを恐れ、戦々恐々と恐怖に眠れぬ夜を過ごす。


一体何が木の葉をこんな風にしたというのだろうか。



「何故、俺が殺されねばならんのだ!!!!」

里長である火影を頼りにしようとも、愚かなる里人はすでに6代目火影を屠った後。
上層部も、悪夢に狂う者達が出て殆ど機能していない状態だ。
5代目火影だった綱手を探そうにも手立てはどこにもなく。伝説の3忍である自来也も6代目火影が追放していた。
最早頼れるものがない木の葉の里は、他の里がわざわざその手に掛けなくても崩壊寸前で。
興味本位からも木の葉に行った者は行方知れずになり。
木の葉を抱く火の国でさえ、嘗ては忍び大国と言われた木の葉を見捨てたのだ。
誰一人として戻って来れない、奇病が流行していると。噂が噂を呼び、誰も近付く事がなくなった木の葉の里は、今や滅びを待つだけとなった――――




 ******




誰も、見向きもしなくなった木の葉の里で、不可思議な噂が流れたのはそんな時。

「聞いたか?」
「ああ。木の葉の里だろ?」
「あそこは・・・あんな事になってから誰も近寄らねーって話しゃなかったか?」
ひそひそと、各里を行き交う行商人たちの間に交わされる話はこうだ。
「何でも、物好きがよ、木の葉の里近くに行ったらよ。里から祭囃子が聞こえるんだと」
「あ〜、変な夢も見るって話じゃなかったか?」
一人が言うと次々に花を咲かせる彼等。
「なんだそりゃあ?」
「ええ?だってあそこはもう・・・まともな人間がいねえって話じゃねーか?」
「わざわざ木の葉に行ったのかよ、ホントに物好きな!!」
「何で祭囃子なんだよ?」
「しらね〜って。でも確かに太鼓の音なんだよな」
「ってお前も行ったのかよ!」
「滅多な事言うんでねえ!こっちまで祟られるぞ!!」
「何にせよあそこにゃ近寄らねー方が賢明だな。おお〜くわばら、くわばら・・・」
「そんな事よりあの大名んとこの姫様がさ・・・」
「聞いた!聞いた!!」
交流所で交わされるそんな会話をひっそりと聞き耳を経て、誰にも気がつれないようにそっと立ち去ったものが居た。

噂話に花を咲かせる行商人たちに気を付かせず、そっとその場を離れられるものなど忍びしか居らず。
彼等の話を一通り聞いた影は、すっと、その姿をどこぞへと消したのだった。




 ******







すっと音もなく現れた一つの影が降り立ったのは木の葉の里近くの森。
森の中腹に降り立った影に、遠くから聞こえる音があった。
忍びとして、五感を鍛えられた影に、微かに聞こえてくる音。それを確認すべく、無言で木の葉の里へと向かう。

段々と鮮明に聞こえてくるのは、行商人が行った通りの太鼓の音。
懐かしさを感じるお囃子に、影―隻眼の、大柄な白髪の男は顔を顰めながら先を急いだ。





祭りだ。

祭りだ。

ああ目出度い。

今宵は祭りだ。
さあさ、皆の衆。今宵はみなみな踊り明かそうではないか



辿り着いたその先で、男が聞いたものは。
男にとって懐かしい、慣れ親しんだ木の葉の祭囃子。
時折聞こえる歓声は、喜びに満ちて。

一体、何が起こっているというのか。
男は呆然と立ち尽くすも、気を取り直して目前の木の葉の入り口に1歩踏み出そうとした。
その時だ。
「―ワシに何用じゃけえ?」
「・・・まだ生きておったのだな自来也よ」
流石は伝説の3忍だ。
その声に反応するようにぴくり、と白髪の男の肩が動いた。
「おめえ、誰だ?」
「誰だと聞かれて親切に答える忍びなど居らぬだろうに・・・」
くくく、と楽しげに喉を鳴らす、未だ見ぬ人物が居るだろう周辺の木々の梢に気配を探せば、こちらだ、と声の主が言った。
言われた先に視線をやれば。
木の葉の里の入り口により近い、木の梢に腰掛けた一人の忍びの姿が見えた。
其処に居たのは。
「お前は確か・・・奈良の息子か?!!」
「当たり、と言ってやりたいところだが、半分外れだ」
特有の全ての髪の毛を高く括った、自来也にとっては目の前に現れた、少年期から青年へと成長の狭間にいる少年の、自分の教え子であった4代目火影の友人であった父親の嘗ての姿に、より類似したその姿に目を見張る。
くつくつと笑う少年は、確かに奈良の子供・・・シカマルであるのに、拭いきれぬ違和感が自来也の背中に冷たいものを感じさせ、無言で構えた自来也に、シカマルの姿をした何かが、面白そうに目を細める。
「ほほ、構えてどうする?我に刃を向けてどうすると言うのか」
軽やかに笑いながら瞬間、放たれた壮大なるチャクラに、ぐ、と自来也が息を詰まらせる。
強大なるそのチャクラは、間違えようのない。
「奈良の・・・奈良のガキをどうしやがった!!!」
九尾!!!!!!
体を一瞬にして押さえつけるほどのチャクラを歯を食いしばって対抗する。
パリッっと静電気が一瞬弾け飛び、自来也を押さえつけていたチャクラは霧散するが、力の差は歴然としていて。
はあはあと肩で息をする白髪の男を、少年が更に目を細めて笑う。
「これは可笑しなことを申す。我はどうもしては居らぬ」
「なら、その姿はなんだ?!!」
「これ?これか」
自来也が指をさした先に、シカマルの姿をした九尾が己を見遣ってまた笑った。
「これは我等の望みよ。主に言われる筋合いはないわ」
くつりくつりと楽しげに笑う九尾に、自来也はそんな訳あるかと叫ぶ。
「疑うか。では、これならどうじゃ?」
くつりくつりと笑う九尾に、見た目は変わらない、しかし劇的な変化が起きた。
「自来也様・・・・・」
九尾が乗っ取っていたとしか思えないシカマルに、嘗てナルト共にいるのを見た少年の顔が・・・「シカマル」がシカマルの顔で自来也の名を呼んだ――――

「おまえ・・・ホントに奈良んとこの倅、か?」
凶悪で、強大なるチャクラに押しつぶされまいと必死に対抗していた自来也は、その劇的な変化に驚いた。
押しつぶされるような強大なチャクラが急激になりを潜め、対抗していた力が空回りして自来也は肩透かしを食らったようにその場にへたり込み、次いで胡坐をかく。
「はい。正真正銘の奈良の息子のシカマルです。自来也様も・・・生きていたのですね」
「おお。伊達に3忍と言われたわけじゃねえ。・・まあ、右目はくれてやったが」
あっさりと信用したように見せかけて、内実腹の探りを入れてくる自来也に、シカマルは口端を上げる。ナルトと共に居るのをしばし見かけたあの頃と変わりはないようだ。
「イチャパラシリーズ新刊はいつお出しになるのですか?」
「うむ、最近イイ娘と巡り合えなくてのお・・・」
どうやら抜け忍扱いされていてもイチャパラは出版しているようだ。少し冷たい視線を向けたシカマルに、ワザとらしい咳払いをした後
「・・・そんなことより、聞かせてもらおうかの?」
「まあ、そんなに急ぐことはないでしょう?宴はまだまだ続くのですから・・・楽しんでってくださいよ」
「ああ?・・・お前何を・・・っ?!!」
「良い、夢を・・・・・」
すっと目を細めたシカマルに連動するかのように影が自来也を飲み込んだ。
「そう、祭りはずっと・・・続けてやるよ。なあ?九尾・・・いや、九重華(このか)」
「ああ。誰にも邪魔はさせぬ。愛しい吾子の願い、我等が叶えてやろうぞ」




永久に――――








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