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「・・・はあ。」
「どうしたの?シカマル」
アカデミーの屋上で、いつものように寝転がっているシカマルが不意に溜息を漏らした。それにすかさず幼馴染のチョウジが問う。どうやらいつもの溜息と違うと、敏感に察知したらしい。本当にこの幼馴染は見た目に反し人の機微に敏い。・・・本人に知れたら切れられそうな事をちらりと考え、シカマルはなんでもねーと返せばそう、と頷くと中断していた間食を再開する。
久方ぶりのアカデミー。本体で来たのは何度目か。いつもなら影に任せきりの日常だが、今日は何故か本体で来た。理由は至極簡単。――休息が必要だった、というのは半分嘘だが、「アカデミーに行け」というのが今回火影直々の命である。
影分身を見習っていつものシカマルらしく寝転がり、ぼんやりと空を見ながらその真意を何度も考えては、あの古狸の裡など知る由もなく。流れ行く雲のように、思考も取りとめもなく流れ行き、想いは只管に、金色を持つものの事ばかり。
キーンコーンカーン・・・
「あ、お昼休みが終わっちゃった」
のんびりとチョウジが言うが、シカマルは寝転がった体勢から全く動く様子を見せないため、少し真面目な幼馴染は一人授業に戻った。
そして。
雲を追っていた目に、きらりと雲間から零れ落ちた光が、突き刺さる。
瞬間、金色を持つもの関係以外にシカマルの心を躍らせた出来事が蘇った。
ガキーン!!
銀色に軌跡を描く二つの刃。相対する二つの影。
一見して二人とも互角に見えた。が、しかし。影の一つ、戦っているのは<黎>で。もう片方の影に、完全に遊ばれていたのだ。
キン、キキキキキ・・・ィン
ガッ
クナイを駆使し、手裏剣を操り出し、あまつさえ術まで自在に発動させる。
血系限界に頼らずとも、最高峰と呼ばれる忍びは流石、一つ一つを極限まで技を磨いてる。そう、思わせるほど対戦する相手は自由自在に心具体を見事に操っていた。
この日、火影の命にて、暗部入隊早々名を馳せ始めたシカマルこと<黎>に火影監修の下もう、半日近く戦いを挑んでいるのだが一向に相手が疲れを見せる様子さえないことに<黎>は疲れに痺れを感じていた。
それもそのはず、連日連夜のSランク任務を3個以上抱え、しかも一人でこなすのだ。生半可の腕ではないとはいえ、一月も続けば限界も来るというもの。まして、己より強いと肌で感じる相手に、どこまで通用するのか。緊張と高揚感と、プレッシャーを抱えたまま集中を強いられ精神負荷も半端ではない。
「・・・上等じゃねーか!」
こんちくしょー!!!!
それでもギブアップだけはすまいと、全てが限界に達するまで戦い抜いた。
おかげで満身創痍。相手も多少成りと手加減していたようだし、こちらとしても少しは傷を負わせることが出来たんじゃないかと思うのだが・・・。
ふ、と口元が自覚なく緩む。
戦って、気が付いたときには暗部専用医務室のベッドの上だった。治療してくれたという医療忍者に聞けば、最後の方はずたぼろになってほとんど意識も飛んだ状態でどうなって終わったのかさえ解からないほど酷い有様だったという。そこまでさせるなよ、とシカマルとしては突っ込みたいところだったのだが、全ての傷は塞がれており、何と、疲労困憊していた身体が嘘のように軽くなっていた。
不思議に思って、何か特殊な薬でも開発したのかと訪ねれば首を振るばかりで、治療といっても回復した後を更に念のために、という感じで見ていただけなのだというそいつの言葉に直に火影に問い質したのだが。
何と、手合わせしたのが忍最強とも、実在しないとも、女だとも、実は火影だとも噂されていた”弧刃”だと教えられたのだ。しかも手当ても”弧刃”がしてくれたという。
顔を見ることは叶わなかったが、あの時交わした視線はきっと忘れることはないだろう。出来るならば彼の忍びとマンセルを組んでみたい。そんな想いが沸々とサボり続けているシカマルの中に沸き起こる。
―取り敢えずは、火影に下されたアカデミー内での任務を終わらせよう。
漸く五時間目の終了を告げるチャイムで起き上がったシカマルだった。