真実は心<キミ>の中に〜君が目覚めるとき〜






―――呼んでいる



誰かが俺を。
ずっと遠くで。
いや、―――とても近くで。
それはまるで霧に包まれた姿のように、微かに聞こえる声だった。
その声を聞くと居てもも経ってもいられなくなる。
この声は。
俺を導いているのか?それとも俺を陥れようとしているのか。




・・・・・俺にはわからない・・・・・・







真実は心<キミ>の中に〜君が目覚めるとき〜







ミッドガルに辿り着いたクラウドたちは、宿を求め繁華街を歩いていた。
久しぶりに感じる腐ったピザ。プレートの上とは正反対の日の当らない腐敗漂うこの場所だが、それでも、皆精一杯生きている。
僅かな郷愁を感じ、過ぎた日々を思い出してクラウドはほんの少しだけ唇の端を持ち上げた。
『教会のお花たちが気になるの・・・。ねえ、近くまで来たんだから、久しぶりに行ってみない?』
エアリスのそんな言葉からミッドガルへと戻ってきた―帰ってきたとは誰も口に出来ず、それでも思い入れのあるミッドガル行きに反対する事はなくここまで来たものの、ミッドガルに辿り着くまでにモンスター退治やらなにやらでかなりの体力を消耗していた。
「おーい、ここは駄目だとよ」
ゆったりと歩いている面々に少し離れたところから声が掛った。
見れば少し手前の宿屋から顔を出したバレットが、ぞろぞろと歩いてくる面子に待ち切れないとばかりに大声で伝えたのだ。
宿泊を断わられたとわかった面々は、少し開いた場所で足を止め、先の相談を始める。
「こんな大人数じゃね・・・」
ティファが困ったように溜息を付く。
「え〜、アタシもう限界だよ〜っ!!」
「仕方ねーだろ、頭数多いんだからよ」
へたり込むユフィにシドがぽりぽりと痒くもない頭をかいて投げやりに言う。
「もう歩くの嫌だ〜!!!疲れたよう〜!ベッドで休みたいよう〜!!!!!ここまで来て野宿なんか絶対イヤだよ〜!!!!!」
「オイラは野宿でもいいけどね」
「そりゃ獣はいいよ!でも、アタシは人間だからふかふかのベッドが良いの!!!」
「獣って!酷いよユフィ!!!!」
子供化したユフィとナナキの遣り取りを微笑ましい様子で見ていたエアリスは、皆から遅れるように一番後ろをぼんやりと歩くクラウドに気が付き話しかける。
「クラウド?宿、決まらないみたいだよ?」
「・・・・・・・・・」
「ねえ、どうしようか?クラウド????」
エアリスの問いかけにも気が付かない様に上の空のクラウド。
「ねえ?クラウド?ねえってば?」
再三声を掛けているのにちっとも気が付かないクラウドに、痺れを切らし始めたエアリスに、ティファが寄ってきた。
「どうしたの?」
「何かクラウド、ぼんやりしているみたいで・・。話しかけてるのにちっとも気付いてくれないの」
「そうなの?クラウド?」
「・・・・・・・・」
「クラウド」
「・・・・・・・・」
エアリスが少し口を尖らせて言えば、ティファが代わりにクラウドを呼ぶ。けれど返ってくるのは沈黙ばかり。
反応してくれない彼に、ティファもエアリスも完全に痺れを切らした。
「ね、何か刺激でもあたえれば気が付くかな?」
「そうね。一発、喰らわせてみましょうか?」
ぐっと拳を堅く握るティファに、エアリスは「それ、良いかもvv」とはしゃぐ。自分に迫る危機にも気が付かない様子のクラウドは、まだナナキを苛めるユフィにも、他の宿はないのかと探すバレットにも、知らん顔のヴィンセントにも、まったり煙草をすい始めたシドにも、意味もなく飛び跳ねているケットシーにも気が付かない。
「とりあえず、2人で叫んでみましょうか?」
「そうね、流石に耳元で叫ばれたら気が付くでしょ」
気が付かなかったらいたずらしちゃえvv
どうやら女性二人の意見はまとまったらしい。左右から、ぼんやりするクラウドの脇を固めて、「せいの」で大きく息を吸った。
「「ク・ラ・ウ・ド〜!!!!!!!!!!」」
「うあっ!!な、何だ?・・・2人とも・・・」
耳元で叫ばれて、漸く気が付いたらしいクラウドに、二人は悪戯が成功したとばかりに笑う。
きーんと来ているらしい耳元を押さえながら、交互に二人を見遣るクラウドに、にこにこ笑ってエアリスが小首をかしげる。
「もう、どうしたの?さっきから話しかけてるのにクラウド、気付いてくれないんだもん」
「そうよ、ぼーっとしちゃって。何か気になることでもあったの?」
ティファもエアリスに続いて問えば。
「え?ぼーっとしてたか?俺?」
驚いたように聞き返すクラウドに、エアリスとティファは揃って呆れた顔をした。
「十分、してました!」
手を腰に当ててめっと悪戯を叱るようにティファが言えば、くすくすとエアリスが笑う。クラウドは降参とばかりに手を挙げ困ったような顔をすれば、2人はついに耐えられませんとばかりに声を出して笑い出した。
「そこ!じゃれてねーでこれからどうするか決めるぞ!!」
走り回っていたバレットがいつの間にか仕切って進めていたらしく、すでに他の面々はクラウドたちを待っている様子で、三人は肩をすくめて見せた。
「あ〜・・腹減ったなあ」
「そういえば、そうですなぁ」
唐突にぼやいたシドに、ケットシーが同意するが、そもそもケットシーは物を食えるのか?そんな疑問が思考を過ぎるが、ぐう、と見事なチームワークで全員の腹の音が響いた。
沈黙がこの集団を取り巻く一体を包む。
「え、えと・・・こうしない?」
―何人かに分かれましょ?
気まずい雰囲気を一掃させるようにエアリスがワザと明るい声で提案してみれば。
いち早く女性陣が口々に同意し始める。
「そうね、この大人数だから止まれなかったわけだし」
「エアリス冴えてるう!!!」
一瞬にして沈黙の影を追い払ったエアリスに、クラウドが瞠目すればぱちん、とウインク一つ送られて、クラウドは苦笑した。こんな場面、いつも彼女に助けられてきた。ふとそんな事を思いだし、苦笑したままの口端は、自然なものへと変化していた事にクラウドは気が付かず。けれどウインク一つ送ったエアリスは嬉しそうに、2人の遣り取りをいていたティファは顔を背け、こっそり伺っていたもう一人は、その様をじっと、見詰めていた事に、クラウドは気付く由もなかった。
「じゃあ、どういう組み合わせにしよっか?」
「明日の待ち合わせも決めないと!!」
「2〜3人に分かれるのが無難よね」
こういうときは男よりも女の方が決断力があるので、次々と決めていく彼女たちに誰も反対の声を上げる事はしなかった。・・・口を挟める隙がなかったとも言うが。
「じゃあ、2・3人のグループに分かれるということで。集合は明日の明朝、ここに集まるという事にして、誰と誰が一緒になるか・・・」
リーダーであるクラウドが決定事項としたことによって、一晩だけだが少人数で行動するのが決まった。
「は〜い!はいはいはいっ!!」
班分けに悩み始めたクラウドに、ユフィが先ほどへこたれていたのは何所へやら、勢いも良く挙手をし捲くし立てた。
「ユフィちゃんが思うに、女は女の子同士が良いと思いま〜すっ!!!」
元気良く発言すれば、そうねと残る2人も手を合わせて同意する。
「女の子同士の方が気が楽よね〜」
「偶には女の子だけで話がしたいし」
「「「ね〜vv」」」
そう言って女だけで頷き合うえば。
「ね、ね、もう行こうよ!!」
「そうね。早く宿を決めたいわ」
「お夕飯、どうする?」
クラウドが何か言う前に楽しげに歩き出した彼女達から、ユフィが何故か離れて近寄ってきた。
「残念っ!今夜は寂しいね〜」
こそっと耳打ちするように言われたのはそんな台詞。
「何がだ・・・」
「いや〜ん、ユフィちゃんに言わせるの〜?」
頬に手をあて、くねくねと身体を左右に動かしながらユフィは三日月形に目を細ませている。
あきらかにからかっているのが判る彼女はにやにやとクラウドを小突きながら口を動かす事も忘れない。
「ティファもエアリスも離れ離れなんてね〜?」
うりうり。
「あん、それともかっわい〜いユフィちゃんがいなくてクラウドさんはさっみすぃ〜のかな〜?」
にっしっしと笑うユフィは心底楽しそうだ。
「・・・ユフィ・・・」
『ユフィ〜!そろそろ行きましょう〜!!』
脱力するクラウドに、丁度少しだけ先にいる二人から声を掛けられたユフィはあははと笑って「じゃあ明日ね〜」と少しばかり離れたところで待つティファとエアリスの元に急ぐ。
「あまりはしゃぎすぎるなよ!!!!!」
『は〜い。判ってますって』
ユフィが二人のもとに着くか否かのタイミングを見計い、声を掛けたけれど三人娘は何所吹く風。クラウドの心配を他所に軽く応えてすぐに人混みに混じって行ってしまった。
「・・・・ったく・・・・」
はしゃぐ彼女たちの姿が完全に見えなくなった後、気を取り直して残った男連中の顔を確認する。
「さて、俺たちも分かれるとするか」



辿り着いたミッドガルはまだ、夕刻。
眠らない街の夜は、まだまだ長い―――――





2006.02.11

>>続く
あとがき(というぼやき)はBLOGにて。