真実は心<キミ>の中に〜君が目覚めるとき〜
「良かったな、丁度一部屋だけ部屋が空いていて」
あの後、クラウドとヴィンセント―――男たちは簡単に、じゃんけんにて同じものを出したもの同士をペアにする、というごく在り来たりな方法で決めたのだ。結果、クラウドとヴィンセント、バレットとレッド13、ケット・シー&シドと言う組み合わせに決定。そして明朝にウォールマーケット入り口に集合、と言う事にて分散したわけだが。
皆と別れ程なくして、幸運にもクラウドとヴィンセントは早々に宿にありつけたのである。
部屋はこじんまりとしているが、野宿をしてきた彼らにしては贅沢すぎるほどで、窓を挟むようにして壁際に配置されている互い違いのベッドだ。これが何より旅に疲れた身体を癒してくれるだろう。ここに付くまでは野宿のオンパレードで、ベッドに眠るなどユフィではないが久方過ぎくらい久ぶりなのである。確かにここまで着ての野宿は厳しかったに違いない。
荷物を降ろし、久々にベッドのスプリングを座りながらも楽しみつつ、クラウドが座っているベッドとは反対側のベッドにいる男に声を掛けたのだ。
「―そうだな」
男も同じようにベッドに腰を落とし、安堵の息を零していたのだろう。少しだけ答えが返ってくるのが遅かった。
「ユフィじゃないけど確かにここまで来て野宿は厳しかったかもしれないな」
「・・ああ」
「そういえば、ヴィンセント。ミッドガルに来たの大体十数年ぶりになるんじゃないか?」
「そのようだな・・・・」
いつもはクラウドも、自分から話しかけるような性格ではないのだが、今は疲れている所為なのか一夜の宿を見つけられた安堵からか、今夜は違う様子で何かとヴィンセントに話しかけている。
しかし。
「で、十数年前っていうとタークスだったんだろ?」
「ああ」
「昔も、今と変わらない仕事内容なのか?タークスって」
「・・・そうだな」
「・・・・・」
「ああ」とか「そうだな」しか返答を返さないヴィンセントに、珍しくも何かと話しかけていたクラウドだったが、流石に普段はどこか人付き合いを苦手に分類している彼はすぐに言葉に詰まってしまった。いつもならば気にならない、寡黙な者同士の沈黙がイヤに重く感じられ一方的にクラウドは気不味く思う。ヴィンセントは特に気にした様子も見受けられない・・・というより何を考えているのか、さっぱり読み取れない無表情で、じっと、自分の足元を見ているようだ。
「・・・。俺、先に風呂に入ってくるから」
どこか居た堪れない空気から逃げるように、クラウドはすっくと立ち上がるとそそくさとマッハの勢いで用意をしたかと思うとヴィンセントの返事を聞く前に出て行ってしまった。
「・・・・・」
クラウドが出て行った部屋の中。結局は口を開く事もなくただ、床を凝視する無言のままのヴィンセントが一人残ったのである。
カポーン・・・
風呂場は混雑時を過ぎたとはいえまだ込み合うであろう時間帯であったが、目いっぱい籠が埋まっている脱衣所から大浴場に入ってみれば広々としている所為か案外中は空いている様に思える。
開いている適当なところに座りる。無造作にごしごしと、長旅の汚れと疲れを落とすようにいつもよりも時間を掛けて身体を清めながら、クラウドはぼんやりと部屋でのやり取りを考えてみた。
―――どうしたんだ、ヴィンセントの奴・・・?
普段の態度から、人のことは言えないクラウドではあったがそれでもヴィンセントの態度がおかしいと思う。いつもなら、話しかければちゃんと返事をし、応えてくれるのに。今日は・・・、特に宿屋には来てからおかしい。素っ気無さにぼんやりが加わったというか。
―――ここに来るまでは特に変化なかったと思うが・・・。
上の空の彼にクラウドは不思議に思うが、今日を振り返っても思い当たる節は見当たらない。
―――まさか、俺と一緒の部屋なのが気に入らないのか?
長年一人でいた所為か一人が落ち着くというけれど。確かに一人部屋のほうが気兼ねないとはクラウドも賛同するけれど、ぎりぎり空いていた部屋はツイン一つのみ。宿屋の部屋が空いていないのだから文句を言われても仕方ないだろう。
唯一思い当たった事に予測を重ね、少しだけ腹立しくなったクラウドは、あくまでもクラウドの想像である―ヴィンセントの態度の理由を一気にお湯を頭からかけ、泡と共に洗い流した。
「・・・おう、知ってるか?」
「なにが?」
「ここの近くに出る、変な奴等の話」
ゆっくりと、疲れた身体を癒そうと湯船に浸かってふっと一息ついたときだ。
いかにもな強面の、体格の良い男たちの会話がクラウドの耳に入ってきたのは。
「変な奴等?んなの、俺たちで追い払っちまえばい〜じゃん」
「そうそう。俺らのテリトリーで好き勝手なんかさせねーって!」
「んな事当ったり前よ!俺らの場所で好き勝手にゃさせねえ!だがよ、違うんだよ!!」
興奮気味に話を振った男が仲間の揶揄に声を荒げ力説し始めた。
マナーのいかにも悪そうな男たちは、迷惑にも湯船の一角を占領しながら周囲に脅しを掛けるように好戦的な色を混ぜながらも話を続ける。そんな彼らの話が、余りに大きな声だったので嫌が応にも耳に入り込んできたのだが、クラウドはさっさと下らないと思わしき内容に見切りをつけ、我関せずの態度で湯船の端で手足を伸ばしていたのだが。今まで大声で話をしていたのに少しだけ声を潜めるように話し出した態度に何か引っ掛かるものがあったらしい。クラウドの耳は勝手に男たちの話に耳を傾けてしまった。
「何が違うってんだよ?」
「そいつらは全員黒マントを被っていて・・・」
「どこからともなく現れては『セフィロスさ〜』とか何とか言っては一晩中街を歩き回ってるんだとよ」
「?!!!!!!!!」
男が発した一言に、衝撃を受けたのは。
「で、朝になるといつの間にか消えてるっつー話なわけよ」
「セフィロスさ?何だ、それ?」
「新手の怪談か〜?」
真剣な顔で語る男の話が終わると仲間の2人が囃し立て、男もにやっと笑って締めくくる。
「それがよ、聞いてくれ昨日女がよ〜」
「ぎゃはは、何だよなさけねーな」
「尻の毛毟られっちまったって言うのかよ?がはは」
周囲の迷惑を微塵も考えずに男たちは自分たちの話に花を咲かせ続けている。そこへ、一人の男が無謀にも彼らに近付いていった――――
一方その頃。
「ねえ。そういえば男の人たちはどうしたのかしらね?」
分かれてすぐさまラッキーな事に宿屋に有り付けた女性陣は、部屋で寛ぎつつ誰がベッドを使うかどうか決めていたところにティファの素朴な疑問が落とされた。
「うん。そういえばどうなったのかしら?」
「って、2人とも〜!何惚けた振りしてるんだよっ!!」
にたり、と笑うユフィにエアリスもティファも揃って首を傾げて見せる。
「何のことかしら?」
「うわっ白々しい!!」
大仰にユフィが叫ぶと、顔を見合わせた2人が笑って答えた。
「別にクラウドとヴィンセントは」
「絶対一緒の部屋だなんて」
「「思ってないわよ?」」
最後は揃って告げた言葉は、とても明らかで。
「こんのウソツキ共め〜!!」
笑う彼女たちに負けずと劣らず、楽しげに笑うユフィの声が部屋に響き渡った。
ちなみに3人娘はシングルを取るのがもったいないとツインの部屋にソファを入れてもらい、誰がベッドで寝るのか決めている最中であったのである。
それにしても彼女たちの示す言葉の意味は、果たして。
2006.05.03
>>続く。
あとがき(というぼやき)はBLOGにて。
