3
夢の中、いつも感じるのは愛おしさ。
けれど届かない両手。歯痒さと、狂おしいほどの恋情だけが空しく。
空しいと知りつつもただ、焦がれずにいられなくて、望まれるがままに。
哀れなマリオネット。
けれど何て幸せ。
ただ、望むがままに踊っていられたら良かったのに。
貴方の掌の上で踊る滑稽な操り人形でいたかった―――
はっと気が付けば視界は暗闇に覆われていて、一瞬自分が何所にいるのか判らなくなる。が、すぐに今の状況になるまでを思い出しそっと息を吐く。
ここはハイウィンドの中。宛がわれた一室で、考え事をしている間にどうやら転寝していたらしく、かなり予定を遅らせてしまったようだ。
暗闇に目が慣れていく中で、クラウドは一度軽く頭を振ってから今に至る経路を脳裏に描いてみれば。
夕食の後のティファとの遣り取りを思い出してしまい。
彼女が話しの最中、僅かに目の奥に見せた動揺がいやに鮮麗にクラウドの心にしこりを残した。
「・・・・何故だ?」
ここにはいない幼馴染みに問うてみる。
しかし、問いを向けられた彼女はおろか、誰もいない部屋では答えてくれるはずもなく。
結局クラウドは、頭を抱えて深い深い溜息を吐くしか今のもやもやとした感情をやりすごす術を知らなかった。
「どうしよう・・・・」
困惑しきったのが判る声が、同じ頃ハイウィンドの別の部屋から聞こえてきた。
「どうしよう・・・気付いちゃったかな?」
それとも思い出した?
不安を隠しきれないソプラノが、明かりを押さえた部屋の中頼りなく響く。
じっとしている事など出来なくてさっきからうろうろと部屋の中を行ったり来たりしている。
その度に彼女の長い黒髪が不安を表すかのようにゆらゆらと揺れるのだ。
『で、なに?クラウド?』
皆でとった夕食の後、約束通り話をするためにワザと2人きりになってみれば、何所となく思い詰めているクラウドの姿があって。首を傾げつつも圧し掛かってくる重たい雰囲気を少しでも取り除きたいが為にワザと軽い口調で問いかけてみれば、ティファの努力を無駄にするようなどんよりとした空気を纏ったクラウドが、その口を開いた。
「ティファ。俺は・・・・」
―――本当に君が知っている幼馴染みの俺<クラウド>なのか?
その問い掛けに、彼女は。
ティファの目には、今にも儚く消えてしまいそうな空気を纏ったクラウドがいて。
「・・・クラウド――――」
彼女には、何も。
何も伝えることが出来なかった―――
暗闇の中、揺れ動く感情。
抱きし思いは何所へ行く?
誰もが願いを秘めたまま。
―――思い出せ。
遠い、遠く闇の奥から囁く声。
・・・・早く思い出してくれ・・・・
懇願するように、嘲笑うように。
それは一体誰の声なのか。
今はまだ誰も知らない。
next or back