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いつも探してる・・・あなたの、影。
「クラウド〜?」
もう、どこ行ったのかしら?
長い豊かな黒髪を揺らし、ティファは途方に明け暮れる。
辺りは夕暮れに染まり、もうすぐ訪れる夜の気配を濃厚にしているというのに。
今日はハイウインドでの移動ではない。辺りに泊まれる宿も一夜を頼める民家もない為に久々の野宿。
しかもニブルヘイム近くとはいえ、目の前を覆う森は圧倒的な闇をその身に宿し始めているのだ。幾らクラウドが強いとはいえ、夜の森に一人きりなど・・・。
彼に思いを馳せているティファにはどこか儚げな彼が心配でならなかった。
ざくざくざく。
男が一人、森の中を彷徨うように歩いている。たった一本背負われた巨大な剣は、確かに揮えばかなりの威力を発揮してくれることだろう。しかし、男は・・・・男と表現するには余りにも細く、華奢な体躯をしていた。細い、その腕で果たして自身の背にある巨大な剣を揮う事ができるのか甚だ疑問である。しかも森の中で、明確な目的も持たずに歩くなど、危険極まりないのだが。
ただ歩いている。そんな表現がぴったり来る様な今のクラウドにはそんな心配は一切無用だ。なぜならば彼は。
ざっ
黒い影が過ぎった。
気が付けば、辺りに潜む獣の気配。無数に闇に光る瞳がクラウドの様子を伺っている。
どうやら囲まれたようだ。
―12・・・15匹程度か。小さい群れだな。
囲まれたというのに一切の動揺は見られなかった。それもそのはず、彼は。
ギャン!!
獣が断末魔の悲鳴を上げて倒れた。
たった一度の瞬きをする暇もなく、風が、獣の脇を過ぎた。それだけのように感じられた。されど。
クゥ〜ンクゥ〜ンと尻尾を巻いて獣たちは逃げ失せる。駆け抜けた刃を受けた数匹の躯を残し。
「・・・・・。これくらいでいいだろ」
余ったのを燻製にするのも今は面倒だしな。
言いながら何時の間に抜いたのやら、カチリ、と巨大な剣をホルダーに収めているではないか。
どうやら彼が目に見えぬ速さで何かしたようだ。
いや、常人の目には彼が何かしたようには思えないだろう。
有り得ないスピードで、剣を抜いた彼が、剣で一薙ぎしたなどと。それでも嘘のような光景なのに、華奢な彼が揮った剣の衝撃波でニブルウルフが一瞬で倒されたなど、信じることは出来はしまい。
何度も言うようだが、男にしては華奢で細い体躯である彼・・・クラウドは、何を隠そう、神羅の人間兵器と謳われた「ソルジャ-1st」なのだ。
正確には「ソルジャー」ではないのだが、同等の、もしくはそれ以上の能力を持つのが彼、クラウド。
ティファが心配していたクラウドは、一人森の奥で。紺碧の空を映した双眸に、何を映しているのか―
―――誰も知らない何処かの奥深くで、闇の中、目が覚める。
深い、深い闇が視界一杯に広がり、生物として、否。神として目覚めた身の、視力を持っても範囲を特定できぬ程の闇の中。感じるのはたった一つ。
それは母なるジェノバの気配。
目覚めた其れは歓喜する。嗚呼、漸く一つに成れたのだと。
愚かなる生き物に制裁を銜え、新たなる世界を齎す為に母なるモノと融合した。
ククク、と笑いが漏れる。
かつての愚かな男の名残。されど生まれ変わったものの其れ。
ああ。気分が良い。
人間共に目の前に広がる無限の闇のように、心地よい絶望を齎してやろう。
神から送る、せめてものプレゼントだ。
クククと喉の奥で笑う。
闇の中、目覚めた其れは気が違えた様に目覚めの産声の代わりとばかりに笑い続けるのであった――――