今日も今日とて、今宵も相変わらず。
一つ、齢をとっても忍びである限り・・・特に暗部に属している限りなくなりはしないであろう、赤き華咲く夜。
それでも。
「今夜も月が冴えてるな、っと」
クナイに付いた血を払いながら満天に輝く夜空を見上げて。少しばかりやさぐれた風に呟く君にふ、と笑ってしまう。
「ああ。お陰で流れ星のしっぽも良く見えるってか」
「うわ〜、お前が流れ星って!」
しかもしっぽって!似合わね〜!!とお互いの気配しかなくなった夜の世界に暗部の面を外して弧刃<このは>が笑う。
「はいはいはい、どうせ俺には似合いませんよ。お前みたいな面と違ってな」
こんな面だし、と少しばかり拗ねたように帆叢<ほむら>が面を外す。
顕になったその顔は、確かにロマンチストには程遠いほど精悍な顔をしていて。男臭いその顔を己の父親と瓜二つと幼い頃から称されていれば嫌でも自覚はあるので、まあ、ロマンチストとは程遠いよな、と自分でも思ったことを返せば。
「むっ!俺みたいな面って何だよ!!」
まるで”どべ”のナルトのように頬を膨らます麗しい顔があった。
そんな女性が見たら王子様みたい、と称される弧刃の美しい顔が幼い子供のように膨れる様に内心笑みが零れるも、平時と変わりない目付きだけで弧刃の顔を指す。
「そんなツラ」
「帆叢!」
途端声を荒げた美貌の主に、帆叢は笑う。
普段は暗部の長として。冷静沈着で、声を荒げるだなんて可愛らしく感情を読ませることなどない”殺戮人形”なんて暗部連中にも畏怖される弧刃の表情。しかし今はどうだ。自分の前だけでコロコロ変わる、まるで”表”の彼と同じくらい自分だけに見せてくれる表情に込み上がる想いと言葉。
愛おしいという気持ちが溢れてしまわないかとそれこそ柄じゃないことを想う。
からかいを顕に己の顔を言われて頬を膨らませる弧刃も内心思う。
自分と並んで一切の表情を見せることのない冷静沈着な帆叢。あまりにも表情が乏しすぎて”顔なし”なんて呼ばれていることなんて知っているのに。自分の前ではこうも素直に表情を見せる彼に知らず優越感を覚えてる。
けれど。
「〜〜〜!なんだってばよ、その顔は〜!!!」
目の前でにやにやと笑う顔は弧刃にとっては面白い表情ではなく。対抗して嫌そうに顔を顰めて見せれば。
「だって、お前・・・」
くくく、と喉奥で笑う帆叢。
その笑顔が秘密だけれど大好きで。でも本人には言えないからぶすっとした顔のまま。
む〜っとしている弧刃が、微笑ましくて愛しくて。笑いながらも次から次へ湧き上がる想いは弧刃と同じ時を過ごす毎に大きくなって。
そのうちパンクするのではないかと馬鹿みたいなことを思う。
ふう、と一息ついてもう一度空を見上げる。
それも悪くないと、似合わない事をする夜もたまにはいいかと未だ憤慨している弧刃に近寄り甘く囁く。
「”月が綺麗ですね”(I Love You)」
「〜〜〜!それこそ似合わねえ!!!!」
真っ赤な顔をして怒鳴る弧刃に、飛び切りの笑みで持って応える帆叢の姿があった。
*夏目漱石が英語の先生をしている時、「I love you.」を訳させたら「我、汝ヲ愛ス。」と訳した生徒に 「『月が綺麗ですね』と言いなさい。それで伝わりますから。」と言ったという逸話から。