それは君へ捧げる七つの、

「あ゛〜ったく、ようやく正月終わったー!!」

肩をボキボキと鳴らしながら黒装束を纏った青年は今まで顔を覆っていたフードを取り払った。
「ったく、面倒だけ押し付けやがって!忍びに盆も正月もあるかってーの!!」
フルフルとまるで水滴を払う猫のように左右に首を振る青年は、今までどうして隠されていたのか勿体無い程の見事なる金糸を乱暴に掻きあげて、どかりと自室のソファに腰掛けた。
「一般人なら兎も角、下忍も・・・いちおう下っ端の中忍もまだ許そう。けどな、ただでさえ人手不足、手練不足だっつーのに年末年始のクソ忙しいときに仮にも暗部が正月休みが欲しいとか抜かし、あまつ任務も押し付けて休みやがったあんの変態色ボケ覆面の役立たずがっ!!」
しかし役立たずと言ってもあれで手練の一人であり、青年曰く変態=カカシは伊達にビンゴブックに載っているわけでもなく。
実力者に相応しい任務を不承不承ながらもこなしていたのだが、どこをどう勘違いしたものか教え子であるナルトと年末年始はずっと一緒に過ごすんだー!!と宣言してくれたもので。迷惑極まりないことにこういう事だけは有言実行してしまうものだからやるべき・・・否、ひと時の休憩を挟む暇もないやらざるをえない仕事が青年に圧し掛かってしまったのである。
「いいさ、今のうちに思い切り気を緩めておけよ。後でたんっっっまりたっっっっっぷり、お年玉をくれてやるからなァ!!!!!!!!!!!!」
待ってろよ、カカシ!!!!!!!!!!!!
大変目の据わった状態で、ふははははと笑う彼の台詞にその時どこぞで件の人物がくしゃみをしたかはさて置き。
漸く仕事の目処が付いた青年の、この半月で溜まりに溜まったストレスを迷惑を掛け捲ってくれた原因にぶつけられずにはおられまいとする気持ちは年末年始無休で寝る暇も惜しんで働いていた彼の仕事っぷりを見ていたものなら同情せずにはいられないだろう。

「まあ気持ちは解らんでもないがな。落ち着け、ナルト」
ほら、と差し出された椀を見て、悪役真っ青の笑い声を上げていた青年・・ナルトがサンキュウ、と受け取った。
「だって。シカマルだってあの変態馬鹿の所為でやらんでもいい仕事増えてたじゃねえか」
「まあ、どこかの馬鹿が変態覆面の仕事全部引き受けようとするからな。ちょっと位取り上げねーと」
自分の分を持ったまま自然に隣に座った青年姿のシカマルの肩にぽすん、と頭を預ける。
「シカマルだって馬鹿だ。俺は平気なのに・・・」
いつもはこんなに素直に甘えてこないのに、余程疲れているのだろう。シカマルはふ、と微笑んで言葉を紡ぐ。
「超馬鹿。こちとら好きでやってんだ。気にすんな」
「いつものめんどくさがりはどこいったんだってばよ〜」
甘く優しい言の葉がくすぐたくて、暗部の長(弧刃)の姿では珍しく”だってばよ”とおどけてみせれば。
「そりゃ俺の”弧刃<なると>”の為ですから」
「ってシカマル!!」
「ま、取りあえず食え」
真っ赤になって名を呼ぶという可愛らしい反応に笑って口付け一つ落としシカマルは箸を取った。

「美味い!」
「おーそりゃかーちゃんにも言ってやれ」
椀の中身は奈良家特性七草粥。素でも野菜嫌いのナルトにも食べやすいように、久々にまともな食にありつける二人の消化も良い様にとシカマル作ったのだった。
「つかわざわざヨシノさんに習ったのか?」
「うんにゃ。お前に作ってやれーって、この間かーちゃんに捕まったんだよ」
汁をすすりながらその時を思い出したのか、シカマルがげっそりしたように言う。
「ははは。もしかしてやけに疲れてたあん時か?」
そのシカマルの顔を見てピンと来たナルトが行儀悪く端で指す。
「ああ。旧家の新年会に出ながらSSランク任務が入ってたあのクソ忙しいってときにだよ」
「うわ〜。ごっくろうさま!でもこんな美味い粥食えたから俺にしてみればヨシノさまさまだけどな」
「お前が美味いって言うだけでこっちは労力を払った甲斐はあるけどよ。何もあの時じゃなくても良かったんじゃねーかと思うね」
くすくす笑うナルトに前半は聞こえないような声で呟いて、シカマルははあ、と飲み込んだ後の息と一緒に吐き出すけれど。
「ぷっ、狙ってやってるのかすげえタイミングだよないつも」
奈良家の最強の人物を思い描き笑うナルトにさらにふてくされた顔になる。
「つか、あれは完全わざとだろうよ」
「ヨシノさん最強☆」
ひゃっほうとちゃかすナルトに人の苦労も知らないで、と愚痴るシカマルの賑やかな夕飯は終わった。



セリ。(誠意)
ナズナ。(すべてを捧ぐ)
ゴギョウ。(温和)
ハコベラ。(追憶)
ホトケノザ。(密かな楽しみ)
スズナ。(晴れ晴れと)
スズシロ。(潔白)
これぞ七草―

それは偶然か。たまたま見つけた野草の、花言葉を知ってどうしても自分が作ったものを食べさせてやりたくなった。
母親に言えばきっと馬鹿にされると思いつつも、ナルトへ捧ぐ七つの言葉<おもい>を飲み込んでくれれば幸せだと、シカマルは思ったのだ。


おわり

2009.01.06

某所で七草の花言葉の意味を知って無性に書きたくなったもの。でも上手い言葉が思いつかずゴギョウとスズナが活かしきれない罠。
いつもながら文才のなさに撃沈です(爆)
あ、意味は面倒でも反転すると出てきますー。