「あ、シャボン玉!」
「きれーだねー!!」
子供達のはしゃぐ声が里に響く。小さな容器とストローを口にした子供達が次々と生み出してゆく。
穏やかな午後の日差しを受け、七色に輝くシャボン玉がいくつもいくつも空へと登っていった。
どこからともなく吹かれてやってきた、それ。
何気ない午後の、いつもの岩の上に寝転がって街を見下ろした中、ふわりふわりと。
触れれば一瞬で割れてしまうくせに、たった一つ。
火影岩に寝ている自分の見える場所まで登ってきた。
まるでナルトに見つけられることを望むように、割れずにこんなことこまで登ってきた、小さな奇跡。
たくさん、たくさん仲間が生まれて、その中でもたった一つ。はぐれたのか、それとも己が意思なのか。
皆とはぐれても、風に消されそうになっても、仲間が・・・消えても。
ナルトの目に映るそのためだけに。
「なんて、な」
はっと、自分のメルヘンチックな考えを笑う。
年端も行かない少女の様な思考をするなんて、暗部ナンバーワンを誇る男の考えることじゃない。
いつもの”どべ”を脱ぎ捨てたナルトの表情は只静謐だ。
滅多に人の来ることのない火影岩の上、仕事がないときは大抵寝転がっている。今がその時だ。静かに街を見下ろすナルトの顔をたった一人を除き誰も知ることはない。
「アイツに毒されたか」
シャボン玉に過ぎた乙女思考を、”毒した人物”で思い出しは、と哂う。
『お前がいい』
皆の所へ帰れと、こんな忌み者の所へ来るなと何度言っても聞かず、お前の傍が良いのだという変わり者。
「あいつって?」
「・・・気配を消して近付くなと何度言ったら分かる」
視線をそらす事無く背後に向けて言えば、すっと影が降り立った。
「気配を消したって悟るヤツに言われてもな」
「で、用件は?」
苦笑する男に平坦な声で返すナルト。さて、何時から気付かれていたものかと男は考えるも、未だその足元に実力が及ばない事に一層の努力を胸のうちで誓うものの口では軽く答える。
「お前に会いに来た」
「馬鹿が」
即座に切り捨てられるも、力尽くで追い返されないことに笑い、一歩一歩近づく。
「この里きっての頭脳の持ち主に馬鹿って言えるのお前くらいだぜ?」
「どんな天才的脳みそ持ってようと、馬鹿は馬鹿だ」
「ひでえ言い草だな、おい」
振り向きもせずに言い切るナルトに、男はそれでも気にした様子もなく、当然のように隣に腰掛ける。
「こんな所まで来る馬鹿を馬鹿といって何が悪い」
「じゃあ、お前も馬鹿だ」
折角の休みだってーのにわざわざこんな所で寝そべってるしな。
街を見下ろす横顔に、挑発する様な台詞とは裏腹な視線で真っ直ぐ見つめてくる瞳に、それでも自然を向けずに独り言のように呟く。
「・・・俺はいいんだよ」
「俺も、お前の傍がいいんだ」
間髪いれずに告げる男―シカマルに、漸くナルトは視線を向けた。
「だから馬鹿だといってる」
向けた顔は、”ドベ”のナルトの顔ではなく、暗部ナンバーワンの”弧刃”の顔でもなく。
泣きそうな”ナルト”の顔だった。
―――どうか、シャボン玉のように儚く消えてなくらならないで。