無花果の恋

決して華咲くことが叶わぬなら。
割れてしまう前に捨ててしまおう。
誰にも知られることなくこの身の内で華咲くだけの恋ならば。

「シカマルが好き」
「幼馴染としてじゃなくて、好き」

どうしてこんな場面に出くわしてしまったのか。
思わず顔を覆いたくなった。
なんでここを選んだのかと問いたくなる。告白する場所として選んだ彼女も、・・・・帰り道として選んだ自分も。
否、彼女にしてみれば相手以外に告白する場面をよもや見られるとは思っていなかっただろう。けれど。

―どれだけ道化を演じさせれば運命の女神とやらは満足するのだろう。

選りにもよって同じ相手を懸想する自分がこの場面に通りかかってしまったのか。
とんだ皮肉に笑わずに入られない。

この身の内に甘く熟した実の果汁が滴り落ちる。
熟しすぎて、膨らみすぎて、張り裂けて。
零れ落ちた液の甘さにいつの間にか酔いしれてた愚かさに気付かずに過ごした日々に。
来るはずのない、未来に。


『ナルト』


名前を呼ばれるだけでよかった。
それだけで満足してたはずなのに。

いつの間かに傍に居ることが当たり前で、いつの間にそれが続くものだと思ってた?

「馬鹿だな。そんなことあるはずもないのに」

虚空に空しく響く強がりは、誰にも届く事無く消えてゆく。

目の前には幸せそうな二人の姿。
抱き合うその番の様な姿は、まさにそう在るべくして。
「俺も、好きだ」
真っ赤に熟れた顔で彼女を抱きしめる、見知ったはずの姿は全く見知らぬその姿にそっと背を向ける。
イレギュラーな存在など、彼らが気付くこともなく。

風に消えた言葉も夕暮れに紛れた影も知る事無く。
びっしりと誰にも知られることなく咲き乱れる白い花のように。
決して散らぬ花弁が只ただ、ぎっしり身内に募る。
熟れた果実の如く、張り裂けて溢れてしまう前に華咲く前に朽ちればよかったのに。

――決して知られることがない想いならば。


200803.26

日記から移動。加筆修正済み
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