いらいら
むかむか・・・
今日一日そんな気分を味わっていることに、ナルトは更に眉を顰める。
それでも。
「奈良く〜んwコレ上げるぅ〜w」
「シカマル君、これ、貰ってください!!」
ちらほらと休憩時間のたびに入れ替わり立ち代りで現れる女の子達の姿に、案外シカマルってもてるんだな、何てのんびり感想を漏らしてたのに。
「サスケくーーーーーん!!!!」
「あっ!抜け駆けずるいわよ!!!!!」
「何よ!ブスの癖にサスケ君に近寄らないでよ!!」
「アンタのほうこそブスでしょー!!!!!!!!!!!」
ぎゃいぎゃいぎゃいぎゃいと相変わらず激しいサスケファンの女の子の影でシカマルにチョコレートを渡す女の子の姿。
ああ、どうしてだろう。
「ナルト〜ぉ!俺らトモダチだよな?!」
机に突っ伏しているナルトに赤丸を乗せたキバがお前もチョコ一個も貰ってないだろなんて言ってくる。
「裏切り者のシカマルめ!いつの間にあんなにチョコ貰ってるんだよ!あんなやる気のねー奴なのに〜!!」
何時の間にって朝から貰ってただろ、何て突っ込みを心の中で返しながら、
「シカマルずるいってば!シカマルがもらえるなら俺だって貰ってもいいはずだってばよ〜!!!」
なあ、なんて未だ一つもチョコをもらえてないキバと慰め合う。
―本当、何時の間にお前ってそんなにモテてたんだよ。
キバと戯れてる合間にも違うクラスの子だろうか。寝てるシカマルにそっとチョコレートの包みを置いていっている。てか、今日ばかりは本当に女の子がダイタンだ。
『面倒くさい』
そう言いながらもさり気ない優しさを見せるシカマル。イノと言う最強の幼馴染のせいかフェミニストになっているシカマルは(気が付いたときだけだろうが)重い荷物を持たされた子が居れば半分持って行ってあげたり、勉強で解からないところがあったときさりげなくヒントをあげてたり。それは本当にさり気なすぎて気が付かない人間やそうされることが当たり前だと思っている人間には全く持って気付かれてないけれど、例えるならば「うずまきナルト」みたいないじめられているような人間だとか大人しいような連中はすぐに気が付く優しさだ。見目や能力・家系なんかで目立つサスケよりも余程シカマルのそういった面の方がずっと深い想いを寄せられる対象になっているなんて本人は知らないだろうけど。
「サスケくぅ〜んwww」
「な、奈良君・・・」
サスケが騒がれるのは正直どうでもいい。でも、シカマルがこんなに・・・・。
その事実にぎゅっと痛む胸の理由をナルトはまだ知らなくて。
「ナルト〜?チョコもらえないからってそんなに凹むなよ!チョコなんてもらえなくたって俺たちイケてる!!!!!」
がっと肩に腕を回されぐりぐりと頭を押し付けるキバを鬱陶しく思いながらナルトはどべのナルトを演じる。
「キバ!俺たちイケてるってばよ!!」
「イケてないわよあんた達・・・」
呆れたように言うのは春野サクラ。そして山中イノ。
「イケてないどころか痛いわね!」
腰に手を当てびしっと突っ込んでくるところはいっそ清々しいほど正直で、キバと「そりゃないぜ!」「さ、サクラちゃん!ひどいってばよ〜!!」何ていいながらも自分でも痛いよなと思いながら思い切りドベになる。
「あんまりも痛くてかわいそうだから、はい!」
「あんた達があんまり可哀想だから私達からのお情け!」
傲慢な言葉と少しばかりの照れ隠しを高飛車な態度に乗せてサクラとイノが渡してきた可愛らしく包装されたものは。
「ひゃっほー!!!!!!!!!」
「チョコだチョコだ〜!!!!!!!」
「あんた等私達に感謝しなさいよー?」
「ありがとうってば!サクラちゃんにイノ!!!!」
「さんきゅー春野に山中!!!!!!!!」
「なんでサクラの名前が先なのー?!!」
「それは私のほうが上だからでしょ!!!!」
チョコ貰った〜!!!!とはしゃぎまわるキバとナルトの姿に満足そうだった二人は早々に喧嘩を始める。これも見慣れた光景だけれど。
馬鹿みたいにチョコを貰ってはしゃぐナルトを見てた人物が居たなんて誰も知らなくて。
馬鹿騒ぎをしつつももやもやした気分を抱えたまま放課後がきた。
少し肌寒い教室の、西日差す中。未だに机に突っ伏して寝てるシカマルと、放課後早々イルカ先生との追いかけっこして漸く戻ってきたナルトの二人きり。
つい数時間前までにぎわっていた教室は静寂に満ちており、未だ寝続けるシカマルとは離れて窓際の席に腰掛けたナルトは静かに沈み行く太陽を見つめてた。
静かな、静かな、穏やかな時間。
誰も知ることのない、密かなるこの時間をナルトはとても気に入っていた。
暮れゆく太陽を眺めながらそれにしても、と思う。
どうして今日はイライラが止まらなかったのか。
「ナルト」
疑問が沸いたと同時に声を掛けられびくり、と肩を揺する。
「あ・・・起きたのかってば?シカマル」
お前何時まで寝てる気だってばよ〜!
吃驚したことなど知られたくなくてシカマルに噛み付いてみるけれど、シカマルの静かな視線が付け焼け刃の勢いなど簡単に黙らせる。
「・・・・っ」
バツの悪さに沈黙するナルトに漸く机から身を起こしたシカマルがゆっくりと近寄った。
「なあ、ナルト」
「な、なんだってばよ」
ゆっくりと近付くシカマルがやけに迫力があって、ナルトは少しばかりたじろぐ。
「シカマル?」
気が付けば近付き過ぎじゃないのかと思う程シカマルが接近していて。え、と思ったときには腕を掴まれてた。
「チョコ、くれよ」
「はあ?」
「なあ、ナルト。ソレでいいからチョコ、くれよ」
ソレ、といってサクラたちから貰った唯一のチョコを示す。
「な!お前、俺よりいっぱい貰ってたってば!なのに・・・!!!」
「後から俺が貰ったやつやる。からソレ、食べたい」
だからチョコをくれ、と強請るシカマルの迫力にどうしてか圧倒されたナルトは「ううっ!じゃあ、あとからシカマルのチョコ貰うんだってば!」と、強がりを言いながらナルトへ送られたチョコの包みを開ける。
「ほら。開けたってば、よ・・・?」
チョコを差し出したナルトにシカマルが一つチョコを摘むと話してる途中のナルトの口にぽい、と入れたのだ。
「むぐ?」
なに、と問う中、口に入れられたチョコの甘さが口の中一杯に広がる。その甘い味に隙が出来た瞬間。
「んぐ!・・・・んんんっ」
ばらばら、と残りのチョコが教室の床に落ちた。
「んんっ!!・・・んぅ!!!」
それを勿体無いと思うことが出来なかったのは、シカマルが口付けてきた所為。
「・・・・ぅふ・・・・はっ・・・・」
ちゅく、と濡れた音共に舌と奪われたチョコが出て行った。
「っそーさん」
にやり、と満足げに笑うシカマルが仕出かした意味が解からない。
「何するんだってば?!!」
荒くなった息を整えつつ混乱で真っ赤な顔したナルトにさっきとは打って変わって機嫌よさそうなシカマルがほらよ、と包みを渡してきた。
「?」
「あとでチョコやるっつったろ?」
それはシンプルにラッピングされたものだった。
明らかに女の子達が好んで使うようなファンシーな感じもなくピンク色もしてないそれの、伝える意味を君は気付くかな?
くくく、と笑って出て行くシカマルを呆然と見送るナルトがようやく意識を取り戻すのは扉が閉まった音で。
床に落ちているチョコに勿体ねー!と騒ぎながらついでにシカマルの馬鹿ヤロー!と口にする。
口の中で解けたチョコレートの甘さとイラつきに、ナルトはやられた、と思った。
おわり