「明けましておめでとうございます」
遠くからそんな声がちらほらと。
元朝参りで新年の挨拶を交わす人々の声が聞こえてくる。
「新年、おめでたいですね」
「・・・、この状況でか?」
ふふ、と口端を何が面白いのか上げる男に一瞥し、クナイに付いた血を振り払う。
新年も何も、忍びには変わらない。
任務がある限り暮れだろうが新年だろうが暗殺や奪還、護衛などにはなんの関係もないのだから。
否、行事があるときこそ任務が無駄に増えるというのに。お気楽なもの達は如何に己らの所業が注目され、あるいは監視されているのか理解もせず好き勝手な行動を取りたがる。・・・自覚があって付き合わせる物好きがいなくもないのだが、それは置いといて。
考えなしに付き合う身にもなれ。
時折、あまりにも馬鹿殿っぷりを発揮する大名や我侭な姫や跡取りなどに言ってやりたくなる。誰が護衛してると思ってるんだと。
まあ、それが忍びであり任務なのだから仕方がないといえばそれまでなのだが、他に人手がないのかと一刻は問い詰めたくなる程人使いが荒い長の命に逆らえるはずもなく。また、逆らう気もないのだから文句も言えないのだが、暗部ナンバーワンなどと囃し立てるのならば少しは扱いを良くしてもらえないだろうかと弧刃<コノハ>ことナルトは思うのだ。
ふう、となにやら複雑な気配を見せる相手に湖火<コノカ>ことシカマルはくすりと笑う。
「ええ。こんな状況でも」
軽やかなのに慇懃に言葉を返す”相棒”に、振り向きながら呆れた顔を見せ、
「悪趣味なのか、それとも大物なのか」
言えばすい、と近寄る男の手が頬を撫で上げ。
更に楽しそうに告げられた言葉に顔を顰める。
「めでたいですよ。新たな年の幕開けに貴方を見、貴方と言葉を交わすのですから。」
しかも二人きりですしね。
こんな血に塗れて生臭い場所で何をほざくのかと。
神経を疑わずにはいられないけれど。
「・・・・っ」
「明けましておめでとうございます、弧刃・・・」
吐息が重なる距離まで離れた場所で囁かれた言葉の、その一瞬前に起きた出来事に対処し切れなかったナルトは、目前で綺麗に微笑まれた顔にばっと勢い良く顔ごと身体を離した弧刃は常にあるまじき姿で。
気分を良くした湖火に再び抱きしめられるまで動揺し、「あけましておめでとう」と返せても「今年も宜しく」とは言えないのだったのだった。