煌びやかに着飾られた商店街。ショウウィンドウだけに飽き足らず至るところにコーティングされれている色取りどりの小さな電球のイルミネーションは昼夜を問わずちかちかと輝きを放ち。さざめく雑踏の目立つ一角に設置された巨大なモミの木は特に派手な装飾を施されていた。
「ママぁ、今年もサンタさん来てくれるかな?」
幼子が手を繋いだ先の母親を見上げて尋ねる。
「そうね、まーちゃんが良い子にしてたらサンタさんがきっと来てくれるわよ」
あどけなく問う子供に母親は楽しげに答え、
「ぼく良い子にしてるっ!!だからプレゼントもらえるよね!!!??」
「ふふふっ、良い子にしてればね」
幼子はその無垢な瞳をきらきらと輝かせ、大きな袋を背負い、赤い衣装を纏った恰幅の良い白髭の人物からのプレゼントを夢見る。
そんなこの季節柄どこででも見られるやり取りは定番で、なにも昨日今日始まったような真新しいものではない。
にぎわう商店街の中、マフラーで鼻先まで覆い髪の毛が全て隠れるほど帽子を目深に被った小柄な人物がまるで誰かの影のように、するりと人と人の間を通り抜けてゆく。
ざわざわざわ。
さざめく雑踏。
きらきらしいイルミネーションの群れ。
浮き足立つ街並みの中、一人静かに通り抜けてゆく。
「・・・サンタさん、か」
やがて賑やかな商店街を抜け、中とは打って変わった静寂に包まれた街外れでぽつりと零す。
吐かれた言葉に一瞬、立ち止まった歩みは零れた言葉などなかったように動き出し、やがて街から完全に離れゆく。
ばたん、と少しばかり乱暴に閉じられた扉を気にする事無くリビングまで足を止めず、少しばかり乱雑な勢いのまま目深に被っていた帽子を投げ捨てマフラーを放り投げれば、眩いばかりの金糸が簡素とした部屋の中に現れた。
疲れたようにどさりとソファの上に転がり込めば自然に零れるため息。
「・・・何しに行ったんだか・・・・」
買い物に行ったはずなのに、煌びやかな街頭に気が引け買い物をする気が失せた。
折角、表も裏の任務もない貴重な休みを無為にしてしまった気がして金の髪の持ち主―ナルトは虚無感を味わう。
『良い子にしてればサンタさんがきっと来てくれるわよ』
そのまま疲れたように目を閉じれば、ざわめく街の中と親子の会話が再生され、くっと口元を歪めた。
「良い子、ね・・・なら、俺は・・・・」
全ての人間に忌み嫌われるような忌み子・・・こんな血に塗れた手を持つ”悪い子”のところにはサンタなど絶対に来ないだろう。
「いや、黒サンタなら来るか?」
くすくすと己の皮肉に笑う。
どの道、幸せなクリスマスなんて関係ない。
一緒に祝うような家族も、友人も。―――誰一人としていないのだから。
一瞬だけ脳裏を過ぎた人物の影を見なかった振りして、深くソファに身を沈める。
過ぎた人影は一瞬だったくせに、どうして一度思い出すだけでこんなにも脳裏を占めるほど溢れてくるのか。・・・期待なんて。もう、する気にもならないのに。
誰よりも黒の似合う、恐ろしいほど冴え渡る頭脳を有した鋭い目の男が酷く真摯な瞳を向けてくる。
「やめろ・・・っ」
会うたびに強い視線で強引な態度でそのくせ甘い口付けで全てを奪って行きそうな。否、あいつが操る影の檻に囚われそうで。
幻影の癖に甘く囁こうとする黒をまとう男を拒絶する。
「俺は・・・俺は・・・っ!!!」
どうにかして幻にさえ全てを捧げそうな自分を否定したくて、小さく身体を丸めるように、肘で曲げた肘を挟みながら両手で抱えた頭を振る。
「珍しいなぁ、お前が脱ぎっぱなしなんて」
瞬間、何かを否定したかったのに、否定したかった何かを忘れさせるタイミングで己以外に誰も居ないはずの空間から声が掛かった。
「?!!」
「んで、俺が来たことさえ気が付かないってのも珍しい」
顔を上げた先に、今の今まで幻だった男がにやりと笑う。
「ついに俺に気を許してくれたんだ?」
何時の間にこんなにも接近されてたのか、ぐいと頭を抱えていた片方の腕を引かれた勢いで暗部服に身を包んだ男の胸―よりナルトが座って男が立っている差で腹付近に顔を埋めることとなったナルトが慌てて名を呼ぶ。
「シカマル・・・っ!」
「はは、いい加減素直になれよ」
ナルトの心情など知らぬとばかりに勝手なことを言いながらも優しく背中を叩くリズムに、どうしてか熱いものがこみ上がってくるようで。
「・・・・誰が・・・」
どうしてこの男はいつも狙ったようなタイミングで現れるのか。
意趣返しとばかりに悟られないよう密かに腰に廻した手でぎゅ、と抱きつけば、一瞬驚いたようにシカマルの体が跳ねたけれどすぐさま力強く抱き返されて。
「好きだ」
甘く囁かれた言葉を、けれど聞かなかった振りをしてその温もりを味わう。
サンタなんか来なくても良い。
プレゼントなんて貰えなくても良いから。
どうか。
今だけはこの温もりを奪わないで。