たまには強気で

「離れろ」

冷たい、感情と言う名の色を一切失ったかのような冷えた声が思い切り拒絶を表す。
昼間は太陽の光を浴びて輝く空のように青い目も、けれど全てを照らす太陽の光の届かない闇では冷たく凍えた夜の海の様な色となり、俺と言う人間を拒絶する。
「何で」
けれどそんなものに遠慮してやるほど俺は優しくはない。
「邪魔だ」
「どこが」
きっとこの手を離さない限り繰り返されるだろう言葉の応酬は、コイツにとっては苦痛なのだろうが俺にとってはハートフルコミュニケーションだっつーの。

だから、
「いい加減にしろ」
「それはこっちの科白だ」
決して逞しい体付きをしていない、むしろ細身に入るほどの上背しかない俺の腕の中にすっぽりと納まってしまう細い身体を更に抱き寄せれば、これ以上は無理だってくらい抱き寄せている為か文句を言っているのだろう声はもごもごと胸元に消えていく。

―馬鹿だなあ。
抵抗さえしないお前をこの俺が逃がすわけないだろ。

そう、全身で拒絶するくせに、なすがままの弧刃―否―ナルト。
全てを屠る最強最悪の、火影に次ぐ(本当はとうに凌駕している)木の葉でナンバーワンの暗部で実力者であるくせに、ナンバーツーなんて名ばかりの未だお前に実力が追いつかない俺から逃げれないわけないのに。

身体の自由は未だ利くからか。
いつでも逃げられるとでも思っているのか。
けれど、心を縛ることには成功してる、って解かってないのか。
「ちょー馬鹿」
きっと本人は感情に鈍いから気が付いていなそうだけれど。
ニヤ付く口元を隠そうともしないシカマルに、いまだもごもごと胸元で何か言っていたナルトが抗議するように背中に爪を立てた。
―つまりは腕を背中に回したということで。
それを抱き返されたと認識するシカマルはさらにほくそ笑む。

「つか、邪魔すんな」
うっとうしいんだよ、雑魚が。
忘れていれるはずもない状況でナルトを抱きしめていたシカマルだが、任務中であることをようやく思い出す。
ほとんど影に任せきりで、けれど状況だけは把握しておいたシカマルがちらりと敵の様子を伺えば。しぶとく生き残っていた残党が中央で抱き合う二人目掛けて攻撃を仕掛けてくるのが見えた。
ここまで来て実力の違いが解かっているのかいないのか。死にかけの彼らはだからこそ決死の覚悟で。現れたときから一歩も動くことのない、しかも何故か抱き合う二人に壊滅寸前に追い詰められ、どのような術を仕掛けたのかこの場所から逃げることも出来ない彼らは、未だ抱き合う二人目掛けて突進してきたのだった。
ばく。
されど抱き合う二人を銀色の刃が襲い血吹雪を上げた・・・夢だけを見、満身創痍で彼ら二人目掛けて突撃したメンバーは、三人とも。
悲鳴を上げることもできないまま、―何が起きたのかさえ認識できなかったかもしれないまま、闇にぱくりと喰われてしまった。
「任務完了。っと」
「―――」
「―って!」
唐突に脛を蹴られたシカマルが思わず抱きしめていた腕を緩めると、それまで大人しく抱かれていたナルトが一瞬で自分を捕らえていた優しい檻から抜け出す。
「馬鹿はどっちだ!!」

二度と任務の邪魔をするなと、吐き捨て、油断も隙もなく伸びた影に捕まる前にさっさと姿を消した。
「あ〜あ。逃げやがった」
ちぇー、と口調よりさほど残念そうでもないシカマルは、一応周りを確認してもう一度「完了」と告げる。
今回の任務はSSランクだったけれど、そんなのはナルトを捕まえるための手段でしかない。
火影を脅してツーマンセルにしてもらったなんて、ばれたら更に嫌がられそうだな、と思いつつ。
ぶつぶつ言いながら任務完了まで逃げなかったナルトを思い出し、笑う。

「もう少しだぜ」
ここにはいない、ついさっき逃げた人物を重い雲から顔を出した月に見立て宣言する。
「お前は、」
もう俺から逃げられないんだからな

姿を消す直前、弧刃では一切感情を動かさないナルトの耳が赤く染まっていたのを見逃さなかったシカマルが不敵に笑ったのだった。

2007.11.25

長編と暗部名が同じですが内容は関係ありませぬ。