君に恋してる

―そっと離れたぬくもりに、シカマルは思わず追いかけそうになって固まった。

その日も、シカマルはすっかりお気に入りとなっている禁忌の森のとある場所で昼寝をしていた。誰も入ることを許されていない禁断の森で昼寝をするとはどんなに肝が据わっているのか。それとも愚かなだけか。里の大人達は勿論、アカデミーに通う子供達でさえ近寄ってはならぬ危険な場所と知っている場所にも拘らず、シカマルは誰も来ないのを良いことに昼寝に最適な場所の一つとしてこの森を利用していた。そして今、シカマルの隣に居るナルトも。
そもそも禁忌の森は里中を気軽に遊べないナルトが臆する事無く遊べる格好の場で、ほぼ毎日来ている場所だったのだけれど。偶然、昼寝をする場所を求めてやってきたシカマルとバッティングしたのだ。それ以来何となしに二人、距離が縮まっていき。
今では昼寝をするシカマルの隣に、ナルトが居るようになった。

アカデミーでは一緒のクラスだった。
話すこともなく、寝てばかりいるシカマルと騒ぎを起こしてばかりいるナルト。接触する機会はほとんどなかったけれど、存在は知っていた。
シカマルはナルトを騒々しい、問題児だと。
ナルトは・・・・数少ない、自分に嫌悪しない眼差しを向ける人間として。
会話をする機会もなく、接触する機会もなかったけれど。ほんの一瞬、些細なことで交わる視線に何かを感じていたのかもしない。

そして知る。

ナルトはシカマルの得がたいほど比類なき聡明さを。
シカマルは、ナルトの純粋で悲しい、謙虚なる優しさを。

アカデミーで見せるドベとドベ2の姿とは違う、ここでだけ表れる本来の姿に惹かれたのは自然の成り行きだったのかもしれない。ただ、その想いを互いに知る事無く、今日も静かで穏やかなときが過ぎ行くかと思われたのだが。
隣で豪快に鼾をかいているシカマルを、ナルトはそっと覗き込む。昼寝をするシカマルの、隣にそっと擦り寄ってきた猫のように大人しく空を眺めていたのだが、ナルトは不意に落とした視線の先にそれを見つけてしまったのだ。

途端に沸いた興味は、手持ち無沙汰にしていたナルトの関心を透き通る青き空から一瞬で勝ち取ってしまった。

幼い好奇心をナルトは我慢することが出来ず、眠るシカマルに己の影を落として手始めに、おそるおそる手を伸ばして確かめる。
ごうごうと鼾をかくシカマルは、頬におそるおそるそっと触れてきた手のひらに気付く事無く眠り続けている。その事にほっと息を吐いたナルトは、次にその手を輪郭に沿って触れてみた。

―――あったかい

手の平が伝えてくる温もりに、ナルトは眼を見張る。何となく体温が低そうなシカマルだったけれど、実際に触れてみればそんなことはなく。でも、思ったよりも扱けていた頬はそれでも子供特有に柔らかくて。触れた場所からどうしてか、心地良さを感じてナルトは微笑んだ。
そしてちょっと悪戯を思いついたようにつんつんと突いてみる。
「・・・んぐぅ。」
途端、眉間にしわ寄せたシカマルに少しだけ驚いたナルトは指を慌てて離し、一呼吸置いて眠りながら眉間に皺を寄せる寝顔に密やかに笑った。
ひときしり笑った後、ナルトは悪戯されても眠り続けるシカマルの顔をもう一度覗き込んだ。
きつい印象を与える攣目気味の瞳は閉じられており、健やかに眠る顔は輪郭を子供らしく丸みを帯びているのに、けれどあどけなさを残しつつも男らしい精悍さを放っている。・・・・もしかしたらシカマルは、とても整った顔立ちをしているのではないだろうか?
そんな事を考えていたらどくり、と大きく脈打つ心臓の音が耳に響いた。

ドキドキドキ。

何故だろう。眠るシカマルが酷くカッコ良く見えてきた。

ドキドキと高鳴るその音が、まるで操るように音もなく眠るシカマルの顔にナルトの顔が近付けさせて。
唇に吐息が掛かったと思った瞬間。
感じたぬくもりに、はっと気が付いたナルトはがばっと身を起こし、顔を真っ赤に染めた。
―いま、何をしたのか。
己の取った行動に、なにも考えることが出来なくて。ばっと口元を震えている両手で押さえたナルトはどうしたらいいのかも分からないまま、眠るシカマルをそのままに猛然と駆け出した。


「・・・マジかよ・・・・」
ナルトの姿も気配も見えなくなってシカマルが呆然と目を開ける。
その顔は普段のシカマルから想像出来ないほど、真っ赤に染まっていた。


終わり

2007.06.04

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