「苦しくね?」
「ん、・・・丁度、イイ・・・」
優しい声が、そっと訊ねてきた。
このままうとうとと眠ってしまいたいくらい、首筋から肩口に感じる手のひらの温度は、もう、癖になりそうで。実際くせになっているのだけれど。
シカマルの手は気持ちイイ。
それを知ったのは何時だったか。
たまたま疲れたとぼやいた時だったか、普段「めんどくせー」が口癖の男が反応したのは。
その時イノがアロマにはまっているということでラベンダーだのカモミールだのローズマリーだののハーブを大量生産してくれてて、仲間内に強制的に気分転換になるだのリラックスできるだのと押し付けられ主に男連中(植物を育てるのが好きだというナルトを除く)が迷惑しているところに、シカマルが実験の趣味がてらに作り始めたアロマグッツは商売になりそうなほど女に受けた物が出来た。
その中でも、軟膏状のものは、秀逸で。
これを使ってマッサージされるとうっとりするほど気持ちがいい。
女じゃないけれど、ハーブの柔らかな香りに包まれて優しい手のひらを感じながら疲れた体を揉み解されるのは至福だと思う。
「・・・ふ・・・ぅ・・・」
溜息のような吐息がばら色の唇から零れる。
血行を良くする為に肌蹴られた襟元に滑る指先にまるで無防備なナルトは、目を閉じているから知らないのだろう。
リンパ腺に沿うように動く指先に、気を抜けば別の動きをしだしそうになるのを必死に抑えている男を目の前にしていることなど。
最初は休む暇もないナルトの為に、純粋な行為としてマッサージを始めたシカマルだった。しかし、これをとても気に入ったらしいナルトが、事ある度におねだりと称してシカマルに強請る様になったのは誤算だった。
最強を誇る忍であるナルトが、これほどまでに無防備に喉元を曝す。
周りに警戒しきっている・・・火影にすら、無防備に喉元なぞ曝すことないナルトが、近距離でシカマルにその身を委ねている。
―――その事にどれ程歓喜したか!
ただ、疲れた体を癒すために始めたことは、次第に間近で見ることになったモノに対して、これまでナルトに感じていた衝動を酷く誘発することになるとは・・・計算外だったとはシカマルには言い切れなかった。
施すマッサージに少しばかり青ざめていた頬がばら色に染まり行く様を、色を失った唇が赤く色付いていく様を見て、これほど惹かれる相手に対しどうして平素で居られようか。
それでも、安らかな表情でマッサージを受けるナルトにシカマルはこれ以上ない程優しく丁寧な癒しを施す。
「全く、性質ワリイったら・・・」
「んー?」
うっとりと身を委ねていたナルトは小さく呟かれたシカマルの言葉に、珍しくも鈍い反応を示す。
なんでもねーと嘯くシカマルに、夢見心地のナルトはふうん、と気のない返事をして再び目を閉じた。
疲れに凝り固まった体は柔らかさを取り戻し、反対に暴走する想いは膨れ上がっていく。
感情制御に苦労する自分とうっとり目を閉じるナルトという、反比例するような現状にそっと溜息を吐くシカマルがいたとかいないとか。
おわり。