当日。−決戦は明日2−

「「「「サスケく〜ん!!!受け取ってええええええ〜!!!!!!!」」」」

朝から女の子達がアカデミー1女子に人気の高いサスケをプレゼント片手に追い掛け回す姿が多々見受けられた。
周りに居る少年達は羨ましそうな、気の毒そうな視線を投げかけては僅かに手にしている包みを大切そうに持ってにやけたり、あるいはがっかりしていたりしている。中には女子に何ももらえなかったものも居るようだ。
うずまきナルトはそんな周囲を見て不思議に思う。
少女達から与えられるものがそんなに一喜一憂を誘うものなのかと。
忍たる者、いついかなる時も己の感情を押さえ、火影のため里の為に任務に付くよう教育されている・・・アカデミーはまさにその教育指導をしているはずなのに、毎年の事ながらこの日は一体何なのかと思うのだ。
そもそもこのアカデミーだけではなく、忍び全体・・いや、里全体が浮かれ浮ついているようにも見えて、今日がどういう日であるか分からないナルトは頭痛を覚えるのだった。


「・・・・・な、ナルトくん・・・・」
教室でも女子のプレゼント攻撃にあっているサスケを、いつも騒々しいナルトにして珍しくぽかん、と見ていると、後ろから控えめな声が掛かった。
後ろを見れば、もじもじと、いつも以上に俯いて。けれど顔は茹蛸もかくやとばかりに真っ赤にしているヒナタの姿があった。
「ヒナタ?なんだってば?」
きょとん、となにやら小刻みに震えている少女に、顔にでかでかと「何?」と書いたナルトが顔を覗き込む。
「あ・・・あの・・・」
ぷるぷるぷる・・・・。
震える少女を前に、あどけない顔をしたナルトは彼女が何かを言い出すのを待つ振りをしながら冷静に観察する。
日向の長女として生まれたという少女は、跡取りから外されたという。
もじもじと俯いている姿を見てその判断は間違いではないな、とも思うが合同練習中などで見せたヒナタはそれでも日向の直系の血を引いていると思わせる働きと力を時折見せていた。鍛え方と彼女の精神力次第では飛躍的に伸びるだろう、そんな事をつらりと思ったこともあったが、「うずまきナルト」が助言など出来ようはずがなく。裏の顔は一切関知させず、少年はただ任務を遂行するだけだった。
そんな裏のナルトの事情など知るはずもない少女は漸く、手にしていた包みをナルトの前に差し出して「・・こ・・・・これ・・・!!」と言った。
首をかしげたままきょとんとナルトは差し出されたものを見つめる。
「?俺が貰っていいってば?」
こくこくと俯いたままヒナタが頷けば、へへへとナルトが笑って受け取った。
「さんきゅ、ヒナタ」
「あ・・、う・・・、うん・・ううん・・・・・」
更に顔を赤くした少女に特に何の気概も沸かないけれど、それでも嬉しそうにしていればいつの間に(いや、来たのは分かっていたが)集まってたのやらイノがヒナタに「良かったね」と声を掛け、チョウジは「いいなあ」といいつつ常備しているお菓子を食べ、シカマルは。
「めんどくせえ」
そう言いつつも、目はじっとナルトの手に持たれているものを見ていた。

シカマルの視線が気になったものの、口を開く前に突撃してきたキバがナルトに体当たりを仕掛け、そのまま取っ組み合いの喧嘩に発展したものだからその事はうやむやとなってしまった。
「なにやってんのよ、もー」
キバとナルトの取っ組み合いをその場に居たメンバーが引き剥がし、納まったところでナルトは疑問をぶつけてみた。
「え?アンタ知らないわけ?」
ヒナタが少しショックを受けたように、イノがまじで?と言い出さんばかりに驚いた表情になり、チョウジがそれは損してる!と身を乗り出し、シカマルはやっぱり、と言いた気にしながらもめんどくせーと呟いた。
「バレンタインも知らないのかよ!」
そんでヒナタにチョコ貰ったって言うのかこの野郎。
キバの言外の言葉を正確に読めたのはきっとヒナタ以外の全員。それほどキバの、ヒナタを慕っているキモチは皆にバレていたのである。
それはさて置き、イベント大好きイノがここぞとばかりに女の子の一大イベントと説明を懇々と熱くナルトに教えたのだった。






闇夜に人知れず動く影があった。
それは複数蠢くように見え、一つの影に襲っているようにも見えた。
しかし、たった一つの影は蠢くような影達に対し舞っている様にも見え、これは何の演舞が行なわれているのかと見るものによっては思うかもしれない。
だが、実際は。
他里の襲来に、たった一人の忍が戦いを挑んでいる姿が月明かりに照らされて影として見えていただけであり、それこそ複数いた敵も、たった一人に次々と倒されていったのである。
最初こそ、多勢に無勢とばかりにたった一人追ってきた忍びに嘲笑を浮かべていたが,相手の実力が分かってくると同時に死の淵に立っていたことを思い知るのだ。否。知る前に事切れた。
次々に倒れ行く仲間を目にした最後の一人が、自棄とばかりに襲い掛かってきた。それも余裕でかわしたたった一人の忍びの腕には木の葉独特の刺青がされており、彼が木の葉の暗部であることを知らしめていた。
「好きな人にチョコを送る日、ねえ」
ラスト、と最後の一人を仕留めた暗部姿の青年は、顔を覆っていた能面を鬱陶しいとばかりに取ると、輝く月光をそのまま映したかのような金の髪をなびかせて、クナイに付いた血を払い始末した亡骸を彼独特の持つ炎で消し去った。
月光が映し出す、青年の顔は秀麗で。男女ともつかぬ中世的な顔立ちがどこか神聖に見せて。髪と同じ黄金が縁取る瞳は、まるで深海を思わせる青―。
もしも勘のよいものならばこの色彩だけで気が付くだろう。だが、思い浮かべた人物と結びつけるのが難しい程、青年は美しすぎた。
されど真実は奇なり、連想した人物がまさしくそうである。
色彩だけは同じだというのに全く持って重ならない、人物「うずまきナルト」。
彼こそが、この暗部の青年だった。
争いの跡だけが残った大地に一人立つ。
月明かりに照らされた、美しき金の髪の青年の脳裏に描かれたのは果たして。






深夜に、日付も変わろうかと言う頃、シカマルの部屋の窓を叩く音が聞こえた。
アカデミーに通う少年ならばとうに布団の中でぬくぬくと惰眠を貪っていてもおかしくはないというのに、この奈良少年は他と少しばかり違っていた。
彼は、IQ300を超える天才であり、また能力もあるのだが如何せん面倒くさがりで。旧家の嫡男であるにも関わらず成績はどべ2(つまりどべのナルトのすぐ上)をキープ、幼馴染に尻を叩かれながら日々をこなしているといった怠惰な少年、というのがアカデミーで見せる彼の姿なのだが、彼の部屋を見れば驚くことだろう。
びっしりと本棚には何やら分厚い専門書がぎっしり。子供はおろか、大人でも一般のものにはさっぱり分からない論文やらレポートやらがびっちり。机の上にも山積みになっているそれらに、シカマルが書いたと思わしきものでさえ、幾何学模様にみえる数式と専門語が走り書きされている。
今も、ベッドに寝そべって入るものの、何やら分厚い本を読んでいたようだった。
常に眠そうなのはこの所為ではないのか、と窓から見えた光景にナルトは思う。
音は本に集中してた割りにすぐにシカマルが気が付いたらしく、顔を上げ窓の外にいるナルトを見て破顔した。

その顔を見たナルトの胸がどくり、と大きく脈打つ。

あまり分かってなかったけれど、大きく鼓動する心音に納得する。
”好きな人”
それがシカマルなのだと。
自分に笑いかけるこの顔が、とてつもなく好ましく思えて。ぎりぎりになったけれど来て良かったと思った。
「今頃任務が終わったのか?」
入れよ、と入室を促されて、素直に従ったナルトはお邪魔します、と慣れつつあるシカマルの部屋に足を踏み入れた。
「大変だな、売れっ子暗部は」
からかう様なシカマルの言葉にまあな、と返しつつも落ち着かない。
先程自覚したキモチがどうにも居心地悪くさせるのだが、今日中に渡さねばならぬものがあるのだ。その為に着替えもせずここに来たのだから。
「どうした?喉でも渇いたか?」
暗部姿のナルトがそわそわとしているのが珍しく、けれどシカマルも今のナルトには分からないだろうがどこか緊張している様子で。はっとしたときには間の抜けたことを言ってしまい、沈黙が部屋を包み込んだのだった。
遅ればせながら喉は渇いてないと答えたナルトに、そうかと返したシカマルが何気なく壁に掛かった時計を見た。
なぞる様にナルトも時計を見れば、針は11時52分を指しており、まずいと焦る。
こんなに緊張したのは初任務の時も、ましてシカマルとこういう関係になった時でさえなくて。
震える声で相手の名を呼んだ。
「シカマル」
「ナルト」
だが、同時に名を呼ばれ、お互いにきょとん、と顔を見合わせる。
「何?」
「何だ?」
再び声が重なり、笑いが込み上げて来た。
「何だ、影まねでもしてるのか?」
「してねーよ。てか術が発動する前に分かるって」
青年姿ではなく、本来の姿に戻ったナルトがくすくすと笑う。表のナルトが笑う姿とは違う、その笑顔にシカマルもまた、胸を高鳴らせた。
「あ〜、任務終わった後だからかな、腹減ったかも」
のび〜っと、リラックスしたように胡坐をかいたまま腕を伸ばすナルトにシカマルが珍しいものを見たとばかりに言う。
「珍しいな。お前が腹をすかせたなんて言うの。」
「そうか?まあ、滅多にないかもな」
「滅多にないことは重なるもんだな。丁度部屋にムースがあるぞ」
「お、それこそ珍しいんじゃね?」
食う食う、とナルトがいえばシカマルがよっこらしょ、と年寄りのような掛け声と共に立ち上がった。
飲み物専用の小さい冷蔵庫がシカマルの部屋にはこっそり置いてあり、主にミネラルウォーターが入っているそこからシカマルがおばさん(シカマルのお母さん)に押し付けられたのだろうと思われるムースを用意する間、ナルトも持ってきたものを渡すために大きく深呼吸を一つした。
時刻は11時58分。まだ、14日のまま。
「ほらよ。」
シカマルがことり、とムースの容器をナルトの前と自分の前に置いた。
見ればトップにはふんだんに生クリームとフルーツが彩られ、下は隠れて見えない。何味のムースなのだろう?しかし宝石箱のように散りばめられたフルーツがおいしそうにコーティングされている。
「うまそうだな」
素直に見た目だけで言えばシカマルがなぜか照れたように早く食えよ、と促してきた。
「いただきます。・・・・んっ」
スプーンですくって一口食べてみれば。程よく甘さが抑えられた上品な口どけのチョコレートムースが、フルーツの酸味と絶妙にマッチしていて。
「うまい!」
手放して褒めればそうか、とシカマルがやっぱり照れたように笑った。
・・・・ん?チョコレート・・・ムース?
ナルトは慌ててムースをすくったスプーンをみる。
見事にこげ茶色の、甘そうな色合い。
上に載っているクリームの白さとのコントラストが見た目にもおいしさを引き立たせている。
そのまま、口に含んでもう一度うまい、といえば、もうひとつあるぜ、とシカマルが自分の前に置いたものをすすめてきた。
ナルトは、そういえば俺もお菓子持ってる、と腰のポーチを漁ればシカマルがまさかヒナタに貰ったもんじゃねーだろうな、と言った。
「ちがう。ほら。」
ころり、と置かれたのはチロルチョコ。
ころころと、置いた時に一つ転がったそれを摘み、ナルトは笑って言った。

「お前に、やるよ」

俺からのバレンタインチョコ。


ぼん、と一気に顔を赤くしたシカマルに、ちょうど時計の針が動いて。ぼーん、ぼーん、と12時の鐘を鳴らした。



END

2007.02.13

あとがきもどきはBLOGにて。