地上で輝くあの月を、この腕の中に閉じ込められたならそれは。
どんな絶望を月に齎すのか。
どんな至福を自分は味わうのだろうか。
無駄に動きすぎる脳が何通りにも描き出すけれど。
結局は空想論でしかなくて。
またひとつ、大きな溜息が零れた――――
真昼の空にひっそりと。
探さなければ見つけられないほど密やかに。
けれど確かにそこに在る。
太陽のように輝かしく笑う瞳の中に、ひっそりと隠れている月は、いつも誰もが見落としがちで。
否。
誰も気付こうとしない。
誰にも気付かされない。
だから月は、いつでもそこに在るのに、ひっそりと。
誰に気付かれる事なく、確かな存在とは裏腹に、まるでないものとして。
真昼に見る夢のように空にひっそり浮かんでいる―――
その月が、自分を受け入れた。
知られる事を良しとしなかった月が、初めて真昼でも輝いている事を教えてくれたのだ――自分だけに。
「なんつーか・・・優越感」
唯一と言われている様で、ただ嬉しい。
「何か言ったー?」
だるそうに雪かきをしながらぼそっと呟けば、即座に近くにいた幼馴染みの少女が反応を返す。
「なんでもねえよ。
答えればイノは、悴んでいる掌に息を吐きながら一休みの体制をとってしみじみと言ってきた。
「そーお?それにしてもアンタ・・・本当にじじくさいわよね〜」
「ほっとけ」
シカマルはめんどくさそうに動かしていた手をイノに見習うように遂には動かすのを辞めて、投げやりにイノに答えるも、彼女の視線は雪の中はしゃぎ回る金色の子供へと注がれていて。
「少しはナルトを見習ったらどーお?」
あの元気、少し分けてもらったら?
なんて、何の意図もなく言われたのだろう台詞だが、シカマルには先ほどまで脳裏に浮かべていた人物の名を当てられたような気がして何だか居心地が悪かった。
「・・・。無理」
ちらりとナルトへ視線を向けて。けれどすぐに視線を逸らしながら溜息混じりに言えば、少しだけ紅くなっているのを誤魔化したシカマルの心を知らないイノはきゃははと楽しげな声を上げて遠慮なく笑う。
「まあ、あーんなに元気溌剌なシカマル、って言うのも気持ち悪いけどね!」
おまえなあ。なんて、諌める言葉もこの幼馴染みの前では無意味だと経験上知っているシカマルは、これ以上の反論が面倒なことも手伝って、やっぱり面倒そうに再び終わらない雪かきを始めるのだった。
いつもいつでもひっそりと。
太陽の影に隠れるように、流れる雲を纏うように。
いつだって何かに知られる事が無いとばかりに、儚く白く天に浮かび。
けれど過ぎ行く一瞬、息を潜めて佇むその表情が、余りにも切なくこの胸を貫いて。
出来るのならば、優しく強く、月を閉じ込めたいと願うのだ。