―――え?
最初に浮かんだのはそんな言葉。
「イルカせんせえ〜!待つってばよ〜!!」
アカデミーで、ずべての授業が終った放課後。クラスでどべ街道をまっしぐらにトップで走るうずまきナルトの声が廊下を歩いているシカマルの後ろから響いてきた。
歩くのにもめんどくささを醸し出しているシカマルが、俯きがちの視線を上げてみれば少し前を歩くイルカの姿があり、後ろからはきゃんきゃんと騒ぐナルトがいて。ちょうど挟まれる形で歩いている事に気が付く。
「イルカせんせえってば〜!!!」
また、悪戯か何か仕出かしたのだろう。前を歩くイルカは振り返らない。
シカマルはめんどくせえ位置だなと思う。
はっきりいえば、ナルトに関わるのはごめんだった。
なぜならば、彼は「面倒くさい」。
その性格も、生い立ちも、立場も。ナニモカモ。
これ見よがしな態度に、人一倍騒がしい性格、九尾の狐をその身に宿した彼は、里では迫害されている。
本来ならばシカマル位の子供たちには知らされる事のない事実。けれど、シカマルは少し特殊な子供で、里の禁忌をすでに知っていた。
自身も一歩間違えればナルトと同じ扱いを・・・里全体からではないにしろ、其れを恐れる一部の人間達からであるが・・・受けるかもしれない事を。
だからというわけではないが、シカマルはナルトに関わりを持つことを避けていた。
火の粉は降りかかる前に逃げるが勝ち。
保身的な考えで結構。
なんて、考えているわけではないが・・・いや、考えてはいるが、つまりは面倒が嫌いなのだ。
何気ないフリで廊下の、一面に取り付けられている窓の一つに、外を伺う用にサッシに手を付きナルトが過ぎるのを待つ。
見上げる空は突き抜けるように澄んだ青空を見せていた。
「待ってってば!イルカせんせっ・・・・!!!!」
だだだと忍者にあるまじき騒音を立てながら、ナルトが窓辺に佇むシカマルを追い抜いてゆく。
―――ハズだった。
ズシャー!!!!!
これまた豪快な音がすぐ後ろで聞こえてきて、思わず振り返ってみれば。
見事に顔面から床へスライディングしたらしい、ナルトがうつ伏せに顔を抑えながら呻いている。
「何やってんだよ」
思わず呟いて、つい手を出してしまった。
「・・・ぇ?」
ぐい、と腕が引っ張られたかと思うと立ち上がらせられていて、ナルトはきょとんとした顔をしている。唐突の事態に顔の痛みさえ、忘れてしまったようだ。
一方シカマルは、あちゃーと顔を覆いたくなっていた。
ついつい、手を出してしまった。幼馴染みであるイノの面倒を見てきた癖で、自然に手助けてしまったのだ。猪突猛進する彼女も偶に、何もないところで転んでしまうような一面があり、いつも助け起こす(でないとあとで煩いから)事になっているシカマルは、ナルトのそれにも反応してしまったらしい。
が、しかし。
(・・・・・・・。)
かわらずきょとん、と見ているナルトの腕を掴んだ手はそのままに、シカマルはすぐさま別のことに囚われていた。
(つか、何だ、この細さは!!!!!)
今、立たせるのに少しだけ力を込めて掴んでいる腕の何と頼りない事よ。
もう少し力を込めれば折れてしまいそうで。あまりの細さにシカマルは驚き、手を離すきっかけを失った。
(チョウジは言わずもがな、イノだってもう少し肉が付いてるし、俺だって・・・・)
だぼだぼの服を着ている印象のナルトだが、男なんだから細くとも筋肉とか筋はしっかり付いているに違いない。卵とはいえ、仮にも忍びを目指して受ける毎日の授業で付いていなければおかしいだろう。なのに、何だこの細さは。
「・・・ほっそ!!」
驚きのまま口から飛び出した言葉はまさしく心から思ったこと。
シカマルはナルトのあまりの細さにビビッて仕舞ったのだ。
「な、なんだってばよ!!」
「お前、ほっせ〜な〜・・・」
腕を掴んだ状態でまじまじとナルトを見遣るシカマルに、ナルトはかーっと顔を紅くしながら怒り始めた。
「俺は細くなんかないってばよ!ひょーじゅんだってばよ!!」
「いや、標準くらい漢字で言えよ。つかお前、どう見ても標準以下だし」
「むっきー!!!」
暴れるように腕を振ってシカマルの手を振りほどいた時、声が掛った。
「ナルト!大丈夫か?」
「イルカせんせー」
前を歩いていたイルカが、漸くナルトが付いてこない事を心配して戻ってきたらしい。ちょうどこける所も見ていたのだろう、髪を一撫でしてから腰を落とし、視線をナルトに合わせて確認すれば、にっと嬉しそうに笑ったナルトが平気だってば、と答えた。
「そうか、気をつけろよ。ん?シカマル?」
漸くシカマル気が付いたのか、イルカが視線を向けてきて、何となく2人の遣り取りを面白くない感じで見ていたシカマルは居心地悪くなった。
「そうか、シカマルが助け起こしてくれたのか、ありがとう」
にこ、とイルカ独特の人の良さそうな笑顔で笑いかけられて、更に居心地悪くなったシカマルは別に、と答えながらそっぽを向く。するとナルトが喚いて。
「別に助けられてないってば!むしろケンカ売られたってばよ!!」
「ケンカなんて売ってねーし」
ナルトの言葉にどこか憮然と反応を返すシカマルをどう思ったのか、イルカは。
「こら、ナルト。助けてもらったら有難うくらい言いなさい」
そんな事を言ってきた。
「ええ〜?助けて・・・もったけど・・・ケンカ売られたってばよ〜」
威勢よく言い返そうとして途中からぶつぶつと独り言を言うように口を尖らせる子供に、イルカは優しく笑いながらナルトの髪を梳いて、ぐずる子供に言い聞かせるように言えば。
「ほら、じゃあ、お礼を言わないとな」
魔法に掛ったようにナルトはとても素直な子供のようで、「ありがとうってば」と口にした。
けれど素直になたのは口だけで、表情は思い切り不本意と書かれていて、シカマルはついに噴出してしまう。
「っぷ。お前、んなツラしてたらもろバレだって」
おもしれえ奴〜。
本気で笑うのはかなり久々で、シカマルは楽しい気分になった。
―――もしかするとコイツとは、仲良くなれるかもな・・・
そんな予感にも似た想いが沸いてきたことも、笑いのツボにハマッたシカマルに受けた。
面倒な事は嫌いだが、退屈も嫌いなシカマルには、ナルトは退屈しのぎには持ってこいなのかもしれない。
げらげら笑うしかマルを再びきょとんと見詰めるナルト。
「な、お前はおかしい奴だってば!!!」
だが、我を取り戻し挑戦的に言い放てば。
笑いを一先ず収めたシカマルがにっと笑って宣言した。
「おう。おかしいからお前と仲良くするわ。これからよろしくな」
「・・・・はあ?ほんっとにおかしい奴だってば!!」
差し出された手に、ナルトは戸惑うようにイルカを見て。
成り行きを見守っていたイルカがにこにこと、頷いて見せればナルトはおずおずと手を重ねた。
「よろしくってば・・・」
こうして怒涛のように2人の仲は始まったのである。
「その前に、お前、誰だってば?」
「はあ?お前、クラスメイトの名前も覚えてねえのかよ!!」
「ナルト・・・(溜息)」
なんて経緯もあったのだった。