―――嫌だ!
唐突に湧き上がったそれ。
ただ、目の前のことに対して強く、瞬間的に反射的にとも思える速度で全身から冷や汗が出た。
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だだ嫌だ嫌だ嫌だ
イヤダ!!!!!!!
どうしてと思う暇もなく、拒否反応だけが起こる。
―――止めてくれ。
どうしてこんな気持ちになる?
自分で何が起こったのか把握しきれない。
ただ、目の前の。
見慣れた光景だというのに。
何ら、いつもと代わり映えもしない光景だろう?
―――ザックスが見知らぬ女を口説くシーンなんてイマサラだ。
なのに、
どうして、
なにかが、
なにが。
違うとでもいうのか。
清楚な感じの、とでも称される女から遊びなれた仕草の、男を虜にする術を持つ上質の、ネイル処理まで滞りのない女。
あるいは、自分目当てにザックスに近付いて。
股を開けば男は誰でも釣られると、勘違いしている馬鹿な女まで。
真っ赤な、ワザとらしいまでに濡らした唇にほいほい誘われて、あるいは自身の魅力を無意識に振りまいて落とした女と、こちらが呆れるほど飽きもせずに幅広く付き合ってきた男が。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だだ嫌だ嫌だ嫌だだ嫌だ嫌だ嫌だだ嫌だ嫌だ嫌だだ嫌だ嫌だ嫌だだ嫌だ嫌だ嫌だイヤだ!
ヤメロ、止めてくれ!!!!!
どうして、
なぜに、
こんなにも。
薄汚れたスラムの片隅で。
生々しい口付けも、猥らがましい抱擁を交わすでもなく。
ただただ、またね、と二人微笑いあった。
それだけなのに。
胸を焦がすほど神聖な。
教会に行っても、神を象った像を見ても、荘厳なステンドグラスを見ても感じることのなかった”聖域”を感じるのか。
止めてくれ、と誰に祈るでもなく。
止めてくれ、と誰に叫ぶ事無く。
止めてくれ、と誰に懇願するでもなく。
目の前には誰も冒すことの出来ない、何かがあって。
止めてくれ、とだたどこか遠い場所で声が聞こえる。