手を伸ばして、触れて確かめる。
掌に冷たい温度。
それが、あの人の他人より若干低めの体温。
「どうした?」
穏やかな低い声。
同じ男なのにこんなに魅惑的に聞こえる。
「・・・・なんでも。」
対してぶっきらぼうに答える自分の声は、若干アルト気味。・・・。若干どころか、アルトなのはまだ、子供だからだ。”力ない”子供である自分を理解するようになれたのは目の前のこの人――セフィロスがいたから。
無力さを嘆いてソルジャーを目指し、村を出てきた俺。
ニブルの片隅から神羅に入って。
この、目の前の男に憧れてがむしゃらに訓練を重ねて一般兵になった時、親友からサプライズで対面した・・・・。
「なんでもないのに手を伸ばすのか?」
ククク、と低い笑いが手を伝って振動を伝える。直接、彼の喉元から。
むっとして手を離そうとした瞬間、タイミングを計ったような腕に逆に捕らえられ引き寄せられた。
「そう、拗ねるな」
「拗ねてなんか・・・」
引き寄せられて自然、その逞しく広い胸に顔を埋める羽目になった俺は直接彼の、脈打つ音を聞くような格好になった。だから、そのまま胸に耳を当て眼を閉じる。
裸の胸の上から直接聞こえてくる、彼の心音。
今のこの状況を一体いつ、誰が想像出来ようものか。
お互いに素肌を曝したシーツの中で、心音を直接聞けるほどこんなにも近い場所にいるなんて。
「・・・寝たのか?クラウド」
優しい、そっと耳を撫でるような声が振ってくるが、無視してすっぽりと腕の中に納まって、穏やかに刻む心音に耳を向ける。
無言でいればぽん、ぽん、とあやすように背中を軽く叩かれて、どうしようもない気分になるのは俺のせいじゃない。
戦場では銀髪鬼だ死神だと恐れられるセフィロスの、本来の優しい姿を知る人は一体どれほどいるのだろう。
掴まれた腕はいつの間にか外されていたから、今度は両手を伸ばして首に抱きついてみた。
応えるようにまたぽん、ぽん、と背中を叩かれて、むずがる子供のようだと笑う。
実際子供なのだから、と言い訳をして、鎖骨の辺りに顔を埋めれば彼の苦笑する気配が伝わってきた。
それでも、離れる気は起きないからこのままで。
このままでいたいと態度で伝えて、今度こそ思考も閉じる。
お願いだから、今はこのままいさせて欲しい。
優しい時間を、確かめていたかった。