その人は、とても哀しい声で俺の名を呼ぶ人でした――――
「いい加減、堪った書類をどうにかしたらどうだ?」
少しだけ、呆れたような色を含めた声が掛かった。
「―――セフィロス!」
パシン、と軽く・・・だが、実際のところ大量の書類で後頭部を叩かれた俺は振り返り犯人を睨む。
「総務課がわざわざ俺のところに苦情を言いにきた。部下の躾がなってないのではないか、とな」
「うわ〜!天下の英雄様にそんな事言えちゃうわけ?総務課怖ぇ〜っ」
ひょえ〜っとオーバーに驚いてみせると僅かに口端を緩めた美しい顔が、俺を見ていた。
無味無感想。冷徹、無感情。無表情。英雄に憧れて上がってきたはずのソルジャーたちでさえ、セフィロスをそんな風に言っていた。アイツには人としての感情が欠落しているのだと。けれど、言われるままに遠巻きに見ていた英雄は、噂と実際とかなりのギャップを呈している人物だった。
「・・・俺の顔に何か付いているのか?」
笑んだ形の唇がそのまま困惑気に変わる。
なんでもねーと、軽く手を振って並んで歩き出す。
―なあ、どこの世界にそんな感情を欠落した人間が居るんだ?
人より解かり辛いってだけで、コイツは。感情欠落なんかしてない。綺麗な殺戮人形なんかじゃなくて、れっきとした人間だ。
人よりただ。
心が、綺麗過ぎて。
「・・・で、だ。人の話を聞いているのか?ザックス?」
――少しばかり自分の感情に鈍感なだけだ。
誰も、コイツに”感情”を教えなかった。誰も、コイツがただの人間であることを教えなかった。
誰も、コイツを抱きしめなかった。・・・それが、最も大事なことだったのに。
なあ。
「おい・・・・?」
せめて、お前が望むならば、俺はずっと近くに居たかったけれど。
「・・・・っ・・・・ん・・・・」
どうか見知らぬ望まれている誰かさんよ。
「・・・・の、馬鹿者がっ・・・・!!」
この綺麗な生き物を抱きしめてやってくれ。
お前は人間なのだと。
哀しい声が笑い声に変わるように。
愛しい声に変わるまで。