「まるで仔猫みたいだな」
ふ、と口端だけ笑って。
一度だけ触れてその暖かな温もりだけを残して通り過ぎる貴方の方こそ猫のようだと。
するり、するりとまるで掴み処のない本人のように、流れるような一筋の銀糸は柔らかく降り注ぐ木漏れ日のように手の平から逃げてゆく。
これまでの人生で触れることのなかった、最高級のシルクと同じ手触りのそれを何度でも捕まえようとするのにするする逃げられる。
「さっきから何をやってるんだお前は」
少しばかり呆れたように振り返る造作に、捕まえたと思った銀の束にまた、逃げられる。
「・・・別に」
別に、と言う割りにはまだ幼い頬がぷうと膨らむ様子にセフィロスはくつり、と笑う。
チョコボみたいな金色の、それこそそのもののように元気に跳ねさせた髪をくしゃりと一撫でし、ようやく落ち着いたとばかりにマグカップを片手にラグに腰を落ち着ける。
すると待ってましたとばかりに最近手に入れたばかりの子チョコボが纏わり付いてくるのに苦笑する。どうやら本日のターゲットは髪の毛らしい。
先程からちょこちょこと背中に纏わりついては髪の毛と格闘してる様は微笑ましく、セフィロスがわざと移動しては追ってくる様がまるで小動物じみて。
「ああ、チョコボと言うより仔猫だな」
僅かばかりの痛みを感じ、振り返れば己の髪の毛に絡まっている仔猫の様子に穏やかに笑って見せた。
するするつるつる。揺れる銀色の。
長い長い綺麗な髪の毛は、持ち主のように中々捕まえさせてくれなくて。
机に齧り付いてたかと思えば電話に立ち上がって、書類を取ってくればまた電話。彼の立場を考えれば致し方ないといえるのだろうけれど、それでもここは二人しかいないプライベートの部屋なのに。
ゆらゆら揺れる銀色の流れは掴もうとするたび逃げていって。
まるでお前には触れることすら出来ないのだ、と。
お前には不似合いなのだと、囁くあの不快な声たちのように嘲笑われているようで。
―目が合えば微笑んでくれて。
通り過ぎるときに頭を一撫でしてくれるけれど。
けっしてこちらからは触れさせてくれないあの人。
自分を猫のようだと口にするけれど。
「貴方の方がずっと猫みたいだ」
ぼそり、と呟くけれど、書類を片手に不機嫌な声が電話に向かってる。
気が付けば漸くひと段落付いたのだろう。だだっ広い部屋の日当たりの良いところに敷いてある、クラウドのお気に入りでも在るラグに足を伸ばした背中を追って流れる銀糸を掴んだ。
拾われて、初めて触れるものだらけの部屋の中。黒髪の親友に教えてもらった最高級のシルクのような銀色の髪。逃げないようにくるりと自分をくるんでみれば。それはまるで。
まるで高級な猫を手に入れられた、気分。