「今日から君のお父さんになります。よろしく」
生真面目な挨拶と共に綺麗に微笑む、目の前の”義父”に、俺は一目で恋をした―――――
そして僕は途方にくれる
「なんだぁ?今日も”お義父さん”とスキンシップできなかったのか?」
そういってニヤニヤ笑う赤毛にいつものように「うっせ」と返し、フェンスに寄り掛かる。
春と言うよりは初夏を思わせる屋上の、凭れたまま通り過ぎる風が気持ちいい。
「ま〜だ母親に遠慮してんのか?ザックス」
根性なしなんだぞ、と。
気分を切り替えようと爽やかな天気を体感してれば飽きもせず悪友のレノがからかいの言葉を吐き続ける。あんまりからかわれるので楽しいかと聞いたところ、物凄いイイ笑顔で固定されてしまったのは現在進行中で悩み続けている事が原因。
けれど、こればかりは仕様がないと思わないか?
初めて会ったのは中学2年の時。
突然、自分で言うのもなんだがとても中学生の子供が居るようには見えない若々しい母親が楽しそうに、悪戯を思いついた子供の様な笑顔でこっそり耳打ちしてきたのだ。
「そのうちお父さん、紹介するね」
「はっ?」
「ふふふ〜、楽しみ、だね」
語尾に音符でも付いてそうな台詞に戸惑いを覚えつつ、そういえばここの所母親がいやに楽しそうにしているな、と何となしに気付いてはいた。その原因がまさかとは思っても居たが。
何となく母親は女手一つで俺を育ててくれてたから、のんびりおっとりしててたまに天然が入ってるけど若いくせに男っ気が一切ないから俺の本当の父親しか愛さないんだと思ってた。
少しばかり裏切られたような、安心したような複雑な気分で。でも、反対する気はさらさらなくて、自分からたまに「どんな奴?」って聞いてたりもした。その度に「な〜いしょ♪」とはぐらさかれてきて。
どんな奴なんだろうと俺なりに想像なんてしたりしてみて、合うのをけっこう楽しみにしてた。
してたけど。
まさか。
「君がザックス?初めまして。俺はクラウド。」
これから君のお父さんになる予定です。
よろしくね、とにこりと微笑んだその義父になる人に、たったそれだけで心奪われるなんて誰が予測できよう?
しかも。
「ザックス・・・これから二人きりになってしまうけど・・・エアリスの分まで俺がちゃんと育てるからっ!!」
だから、安心して、と母の遺体を前に抱きしめてくる、震える細い身体に。
ジンと痺れる熱いものを感じてしまうなんて。
「・・・ありえね〜・・・・」
「いい加減すっきりするためにも襲っちまえばいいんだぞ、と」
自己嫌悪にしょっちゅう陥る羽目になるなんて全く予想してないかった。
「もう、3年経ったんだぞ、っと」
「・・・まだ3年だ」
結婚して早々に。
蜜月なんてたった1週間。たった1週間であの人の幸せは奪われた。
買い物帰りの見慣れた交差点。いつも通ってる何気ない道のりの途中、赤信号を無視した乗用車にはねられ母、エアリスは即死、したのだ。
勿論、俺もショックを受けたけど、その時の、あの人の悲愴な顔を思い出すだけで。
「言えね〜って」
言える訳がない。
言って困らせたくはないし、・・・・。言ってあんな顔をされたら、と思うと。
血の繋がらない、再婚相手のデカイ子供を引き取ってくれただけでも負担を掛けるって言うのに。
「未だにまともに話したこともないんじゃしたくても出来ないってな」
にやりと笑うこいつを殴ってもいいだろうか?
あ〜、ほんっと!
「ど〜すりゃいいんだ〜!!!」
大声で叫んでみても、綺麗な青空はただただ果てしなく広がるだけで何にも答えてはくれはしないのだった。
続きません☆
