触れて確かめる

手を伸ばして、触れて確かめる。
掌に冷たい温度。
それが、あの人の他人より若干低めの体温。

「どうした?」

穏やかな低い声。
同じ男なのにこんなに魅惑的に聞こえる。

「・・・・なんでも。」

対してぶっきらぼうに答える自分の声は、若干アルト気味。・・・。若干どころか、アルトの中でも少し高めなのはまだ、クラウドが子供だからだ。
”力ない”子供、である自分を卑下せず理解するようになれたのは目の前のこの人――セフィロスがきかっけをくれたから。
それ以来、無力を感じても前ほどの落ち込みを見せなくなった。例えどん底に落ち込んでも、彼が、誰よりも忙しいのにも関わらず必ず傍に居てくれたから―
あまり自分を追い詰めなくなったクラウドを歓迎したのはきっかけをくれたセフィロスより、喜んでくれた親友より、何より自分自身だった。
英雄と呼ばれるセフィロス。
だが、英雄ではない彼の人となりを知り、求め、求められ傍に居られるようになったことが今でも信じられない。

無力さを嘆いてソルジャーを目指し、村を出てきた幼かった・・・俺。
ニブルの片隅から神羅に入って。
この、目の前の男に憧れてがむしゃらに訓練を重ねて一般兵になった時、親友から誕生日サプライズで対面した・・・・。
ソルジャーになるまで、いや、この人に対等と呼ばれるほどの実力をつけるまで逢うことはおろか、こんなに近くに有れるようになるとは思わなかった。それが、無意識に手を伸ばさせたのだろう。

「なんでもないのに手を伸ばすのか?」

なのに触れた小さな掌を見て面白そうに言葉を紡ぐ相手が、実際に触れていると意識していなかった指先をクラウドに認識させた。

「・・・・、」

ククク、と低い笑いが手を伝って振動を伝える。直接、彼の喉元から。
むっとして手を離そうとした瞬間、タイミングを計ったような腕に逆に捕らえられ引き寄せられた。

「そう、拗ねるな」
「拗ねてなんか・・・」

引き寄せられて自然、その逞しく広い胸に顔を埋める羽目になった俺は直接彼の、脈打つ音を聞くような格好になった。だから、そのまま胸に耳を当て眼を閉じる。
裸の胸の上から直接聞こえてくる、彼の心音。
今のこの状況を一体いつ、誰が想像出来ようものか。
お互いに素肌を曝したシーツの中で、心音を直接聞けるほどこんなにも近い場所にいるなんて。

「・・・寝たのか?クラウド」

優しい、そっと耳を撫でるような声が解っているくせに問うてくるが、無視してすっぽりと腕の中に納まって、穏やかに刻む心音に耳を向ける。
無言でいればぽん、ぽん、とあやすように背中を軽く叩かれて、どうしようもない気分になるのは俺のせいじゃない。

―戦場では銀髪鬼だ死神だと恐れられるセフィロスの、本来の優しい姿を知る人は一体どれほどいるのだろう。

掴まれた腕はいつの間にか外されていたから、今度は両手を伸ばして首に抱きついてみた。
寝てたんじゃないのか、とまたからかう声が聞こえるがやっぱり無視する。
大きな掌が抱きついた腕に応えるようにまたぽん、ぽん、と背中を優しく叩かれて、むずがる子供のようだと笑っているようだ。
けれど、実際子供なのだから、と言い訳をして、鎖骨の辺りにもぞもぞと顔を埋めれば、彼の苦笑する気配が伝わってきた。

それでも背中の優しいリズムは変わらない。

―だからついつい甘えてしまうんだ。心の中で相手の所為だと言い訳をして、ぎゅっと抱きついた腕の拘束を強める。
もう、離れる気は起きないからこのままで。
このままでいたいと態度で伝えて、今度こそ思考も閉じる。
お願いだから、今はこのままいさせて欲しい。

いつまでも―クラウドが寝入ってからも続いていた―優しい振動を。
夢うつつで感じながらも優しい時間を、彼に触れて確かめていたかった。




200701.12

日記より移動、加筆修正済み