零れ逝く月

空は厚い雲に覆われ、雲の向こうに広がっているのだろう蒼天は、見ること叶わず。吐く息は白く煙り、銃を持つ手は指先が悴んで感覚を失いつつある。
はあ、と吐き出した息がまた一つ。
灰色の雲に吸収されるかのようにクラウドの目の前を一瞬、白く染め広がって消えた。

目の前には凄惨なる状況が広がっている。
先ほど起こった出来事が、赤茶けた大地を更に赤く染めんとばかりに石ころのように転がった出来立ての死体から、赤い液体が流れており、現在も尚、新たなる飛沫が大地を染めている。
―冬とは白と灰色に染まるんじゃなかったのか。
未だ収まりを見せない光景に、どうでもいい思考が流れてく。集中しなければならない状態で、どうしてこんなに余裕なのか、自分でも笑ってしまう。
それを偶然見咎めたペアを組んでいる奴が此方を睨み付けてきたので、肩を竦めて見せれば。
「・・・チッ」
忌々しそうに舌を打つと前方へ視線を戻した。
その際に呟いた声は、意図されたものか?
「これだから特別扱いされてる奴は・・・」
吐き捨てられた言葉に、其れこそ余裕だな、と反してやりたくなったが、ここは戦場。平和に言い争いなぞしてて良い場所ではない。気を引き締め直し、クラウドも前方を見据えて銃を構え直した。クラウドと違いかなり年配の兵は見た目も頼りない子供がどうして自分より上級階級で、どうして上司なのかという解り易い反抗的態度でもってクラウドの些細な行動にさえ繭を顰めてくるのだ。戦場で反抗的態度など度し難い反逆の証であるにも拘らず。
そう、ここは戦場。一般兵でバーケードというなの弾除けを作り、選ばれた戦士達が獲物を仕留める為の。ばったばったと"仲間"が倒れ行く、・・・己が命運を分ける場所だ。―特別扱いと先程の兵士は言ったが、戦場に特別も何もあったものではない。・・・ないのだが、ここに到るまでは確かに特別な待遇を受けたかもしれない。手順を踏んで。

クラウドは、特別擁護兵としてここにいる。
特別擁護兵とは、訓練生ーソルジャーになるための最下級の見習い兵だーを経て、二等兵、一等兵となり3ndソルジャーと続くわけなのだが、一等兵の直ぐ上に”特別擁護兵”という資質を見出されたモノがなる特例階級があるのだ。
特別擁護兵は一般兵の中でも選ばれたものであり、見出された資質だけ見ればソルジャーと遜色ない者である。だから彼らには資質を見込まれた特技で持ってをソルジャーになって初めて許される己に見合った獲物を装備することが許されているのだ。大概に置いては上等兵に分類される特別擁護兵だが、戦況により一般兵を纏める隊長を務めるときがある。
この戦いに置いては魔力の高い―マテリアを使えるものが必要とされている為の与えられた隊長階級―それが、今のクラウドの状況だ。
己の立場に気を引き締め直し、支給されたマテリアの状態を確認する。今更ながらの行動が、己の最後の一線を決めるのだ。特別擁護兵になるまでにクラウドが戦場で学んだことの一つだった。己の装備の再確認をしたクラウドは現場確認のための巡回に出るのだった ―

所変わって、本部司令を置かれた野営テントの中。
「ぬわ〜んだって〜!!!!!」
「五月蝿い」
近距離で大声を張り上げるハリネズミにも似た髪形の男の声に、本部と通信を終えた銀の髪が麗しさに拍車を掛けている麗しの中将が不愉快気に繭を寄せる。
「本部の決定だ」
「ここまで虚仮にされて、あんた、黙って撤退をするっていうのかよ!」
死んだ奴らはホントに無駄死にじゃん!!!

2007.