ホットミルク(蜂蜜入り)




「あ・・・雪・・・・」

呟いた声の主は、蒼天の色を写し取ったかのような瞳を、ガラス越しから今は雲に覆われた空へ返すように向け。吐き出す息は、外との温度差のせいか白く煙った。視界を己の吐息に邪魔されつつも、それでも音もなく舞い降りてくる白きものに釘付けにし、冷たいだろうに男だというのにも関わらず繊細なその白い指先を蛙のように貼り付けて見ている。
「2月になっても降るなんて」
ミッドガルでは珍しいんじゃないの?
窓にへばりついたまま、問い掛ければ、湯気立つカップを持った麗しの「英雄」が、丁度テーブルにそれを置いているところだった。
「ニブルヘイムはこれからが雪が本番か?」
「む、馬鹿にしてる?」
口を尖らせてきっと「英雄」に睨みつけてくるのは、まだ、幼いとも言える少年だ。神羅の「英雄」セフィロスもそれはそれは整った顔の造りをしているが、この少年もかなり、整った顔つきをしている。
「冗談だ」
この、光景をもしもザックス――ソルジャー1stにして英雄の片腕と有名な。そして少年の親友である事はちらほらと聞こえてくるような――黒髪の戦士がいたのならばさぞ騒ぎ立てるに違いない。
いや、彼よりも、作られた「英雄」の顔しか知らぬものにとっては。
神羅が誇る「英雄」の、プライベートルームにまだあどけなさを残した美少年がいるということも。
その英雄が少年の為にホッとミルク(蜂蜜入り)を作ったこと。
何より、穏やかに。
穏やかに、優しい笑みを浮かべて少年を見ていることに、驚くに違いない。
冷徹、冷酷非血人、無表情、銀髪鬼・・・などなど「冷たい」イメージでガチガチに凝り固められているあの英雄が、微笑んでいるということに。

「冷めるぞ」
完全に温度調整された部屋で、寒さなど一切感じられないけれど、それでも湯気立つカップに少年―クラウドは、逸るように窓からテーブルへと移動した。
「熱いから気をつけろ」
カップを手に取ればすぐさまそんな声が掛ってきて。
「そこまで子供じゃない!」
一つ、抗議してから口付けたカップからは、ほんのり甘い、ミルクが喉を潤した。
自然、綻ぶ表情を一瞬も見逃すことなく英雄は。
英雄も頬を緩めた事を見咎めたものは誰も居らず。
上機嫌にミルクを飲む少年から視線を窓に移して、今更のように言うのだ。
「ああ。雪だな」

2007