砂糖入り




目が覚めて、寂しい、何て感情を自覚したのは何時だったか。
何もない、真白な部屋に、たった一人。ぽつんと、居る様は滑稽としかいえなくて。
ふと過ぎるのは故郷で過ごした日々。
唯一温かさを齎してくれる母は、生きてゆく為の資金作りに手一杯で。
村人たちの厳しい視線に、逃げ込んだ山の麓で見た野生動物たちの群れに、毛繕いされている親子の狼の姿を見た時、泣きたくなったのは――

スプリングの利いたキングサイズのベッドの中、本来の持ち主である人物の気配が感じられなくて。
今、ここに。自分の隣に感じていた温もりがないだけでこんなに。
サミシイなんて。

お願いです。
――どうかこの寂しさを埋めてください。
求めるのはただ一人だけ。

迷子の2人が手を取り合って、暖めあうのは必然?
でも、泣き出したいくらい心許ないこの隙間を、埋めてくれる人は互い以外居なくて。
汚れを知らないような真っ白なシーツに繰るまれて、枕に顔を埋めて見るが、そんな事で寂しさが消えるわけでもなく。

「何を泣きそうな顔している?」
「セフィロス!」
ふわり、と漂ってきたバターの香りは、クラウドの好きな砂糖入りの卵焼きの匂いだろうか?
長く美しい銀色の髪に、卵焼きの匂いがついていないといいのだけれど、なんて。
あんまりにも現金すぎる自分の感情に笑いが込み上げてくる。
「・・・かと思えば今度は思い出し笑いか?忙しないな」
心配げだった顔に呆れの色が変わりに現れて。それでも見詰めてくる瞳は優しいまま。
セフィロスは、まだ枕と仲良くしているクラウドに羽のようなキスを一つ、その頬に落とし。
「パンが焼けたぞ」
いうなり再び寝室から姿を消した。
パタリ、と仕舞った扉。
けれど胸を埋め尽くしたした寂寥感はいつの間にか。
「今行く!」
たった一人、求めて已まない人で一杯になっていた。


貴方の寂しさも、僕が埋められたら良いのにね。

end

2007.