Countdown until meeting


清々しい陽光が静謐な夜の空気を纏ったままだった執務室に朝を告げるように差し込んだ。

朝日が齎す光はどんな時であろうと新たなる一日が始まる合図。
例え昨夜、ミッションという名の大量殺人が行われた後でも、戦争という名の無差別殺人が起きた後でも新しい一日は巡ってくる。
そう、ミッション明けの昨日帰還したばかりのセフィロスが、疲れて帰って来たのにも関わらず本社ビルに軟禁されるが如く書類整理に追われ気が付けば、徹夜した後だろうとも。

順番に整理された書類の山を一瞥し、漸く一心地とコーヒーカップを手にした時だ。
ピクリ、とセフィロスが反応した。

チン。バタン!ばったたたばった・・・!!!

ソルジャーの中でも群を抜いて最高傑作と称されるセフィロスの身体能力は,同じソルジャーであっても到底叶わない程全てにおいて特筆して優れている。脚力然り、腕力然り。当然聴力も優れているわけであり、その優秀なる彼の耳が一つの音を捉えた。
神羅ビルの屋上で立てた僅かな足音でさえも聞き取ってしまうほどの聴力は、普段は何かと煩わしいと、自己意識にてシャットアウトしているのだが、それでも優秀すぎるその耳は半径1kmの物音を正確に聞き取れてしまう。
そのセフィロスの耳が捕らえたのは足音だった。それも酷く荒々しく騒々しい。
乗ってきたエレベータが止まった音に重なるように、自動ドアが開ききるのを無理やりにこじ開けたような音が続き、そして、大股にどこかへ向かって走り出した・・・・。

セフィロスは持っていたカップを傾け、今度こそ一口含んで嚥下した。
直後に響いた電子音。
重なるように開かれた執務室のドアの向こうから、現れたのは果たして。

ばったーん!!!!

盛大な音と共に現れたのは一人の若者だった。
「旦那!旦那!!旦那!!!旦那、聞いてくれよー!!!!!!!!!」
後ろへ流すように逆立てた黒髪がまるで興奮したハリネズミのようだ。実際彼は、口調でもわかるように興奮しているのだが。
カップを執務机に置いたところで、セフィロスのところまで一歩踏み出していたザックスと視線が合った。
途端、興奮冷めやらぬといった調子で青年―ザックスが叫んだ。
「あいつ、初めて笑ってくれたんだぜーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
ひゃっほうと飛んだり跳ねたり意味不明な踊りを披露したりと忙しないザックス。
彼はそれはもう、前後不覚に喜びを顕にはしゃいでいたから、現在の時刻だとか場所だとか相手が誰なのか、完全に忘れていたのだ。

ヒュン、と風を切る音が聞こえた。

「どおぅわっ!!!!」

刹那、ザックスが真っ二つに引き裂かれた。

「・・あ・・・あっぶねー!!!!!!!」
―様に見えたが、瞬間は何とか避けれたためにザックスは無事だ。
ドッドッドッと早鐘打つ心臓を押さえつつ、横目で元居た場所を確認すればそこには深々と壁に突き刺さった正宗があり。切先から順に視線を上へずらして行き、見上げた先は。
忌々しそうに顔を顰めた銀髪鬼、いや、セフィロスの顔が。
「ヒィー!だ、旦那っ!本気だったっショ、今!!!」
青ざめたまま、顔を引きつらせてザックスが喚く。
「当たり前だ」
当然とばかりに答えられ、ひどいわ〜とオネエさん調に泣き崩れるザックス。―――もっとも、室内とはいえ、短距離ーだけではないがーを瞬間移動並の速さで移動出来る彼が真に本気なればザックスの身体と首は永遠の別れを告げていたかもしれないが。
壁から正宗を抜きつつ答えるセフィロスの顔は、まだ、渋さが残ってる。
紙一重で何とかおふざけしてられる事に神様アリガトーと心の中で神に投げキッスを送ったザックスは、どこまで太い神経を持っているのか。次の瞬間には刃を収めたセフィロスに今し方のことなど忘れたかのように聞いて聞いてと纏わり付いていた。
神羅の英雄相手にこのような態度を取れるのはザックス唯一人。彼以外にセフィロス相手にこのようなことは出来はしない。
主人に邪険にあしらわれても懐く、飼い犬のような態度に、流石のセフィロスが自棄気味に折れるのもザックスが1stになって以来、二人を知るものにとっては珍しくない光景ではあった。
「それで、何を聞けというのだ」
投げやりに口を開くセフィロスの、頭痛を堪えたような声に満面の笑みで持ってザックスが話し出した。


内容はこうだ。

この春彼の同室になったという新兵を気に入ったというザックスが、なんやかんやとあれこれ干渉してきて3ヶ月目にしてついに、笑顔を見せてくれたとか。
限りなく馬鹿馬鹿しい話だった。
セフィロスにしては何の得にもなりはしない、ザックスの女関係の話と一緒だ。
弟みたいだとかなんだとか口にして入るが、聞いているだけで過剰に思えるほどの干渉は、完全にノーマルである性癖の持ち主であるザックスを疑うほどで、問えば速攻否定するが、疑惑は晴れない。
そもそも、男が笑ったくらいで何が嬉しいのか。
自分の定位置に戻ったセフィロスに対し、カップを片手に英雄の言葉に人差し指を振る。
「ちっちっち。わかってね〜な〜。旦那、アイツ、見たことねえから言えるんだよ」
自分の分のコーヒーをちゃっかり入れてきたザックスが応接用に置いてあるソファにどっかりと座り込みながら抗議する。
「・・・クラウド・ストライフ。14歳。能力はS評価。入社以来成績は一度も落ちる事無くトップを維持中。しかし体力面はA+。年齢・体格からか僅かに平均を上回るだけだが、この年齢にしては一般の平均よりは上回っている。技能はS。射撃の腕は悪くないようだ。魔力は・・・ふむ。現時点でソルジャーと同等。それで3ヶ月目にして異例の特技兵への昇進決定、か。」
「げぇ、トップ驀進中だったのかよ!!すっげえなクラウド・・・って、わざわざデータ呼び出してるのかよ?!」
「彼は現在一般兵の中では将来性が見込める能力保持者だ。確かに身体は軍内に置いて平均以下だが、お前が世話を焼いてやるほど落ちこぼれではあるまいに、何をそんなに拘っている?」
画面に映っている少年の写真に視線を移し、セフィロスは冷たい一瞥をザックスにくれた。
「―最も、この少年の外見ではお前が構いたくなるのも無理はないだろうがな」
ふん、と面白くもなさそうに言い捨てる上司の、言外の台詞を正確に聞き取ったザックスはだ〜!っと大げさに髪を掻き毟った。
「そういうシュミに走ったわけじゃねーって!アイツはだな〜!!!」

―アンタと同じで、どこかほおっておけねーんだっつーの!!!!!

何て、本人を目の前に言えるはずもなく。
ザックスにつられて案外話をしてはいるが、普段ザックス以外には、無口、無表情で近寄り難く、作戦会議のときでさえ必要最小限の言葉しか発しないセフィロス。それでもこの上司は英雄と謳われるだけあって有能で実力も疑いようがないし、信頼も信用も出来る。何より戦闘に置いてはこの上もない程味方であるのが頼もしい。敵であればこれ以上ない程恐ろしくもあるが。けれど、何故だろう。ふとした拍子にそのまま戦場に消えていきそうな時がある。あんなに圧倒的な気配と力を秘め、堂々とした体躯にふさわしい強靭なる精神の持ち主で、ザックス自身、一目も二目も置いている上司であり英雄と謳われるのにふさわしい人物であるのに・・・・。
同じくクラウド。こちらも普段はセフィロスと同じ無口、無表情の上、やっぱり必要最小限の言葉しか話さない。同室であるザックスにさえ、言葉少ないけれど会話をするようになっては来たが、どうも未だ心許してくれた様には見えない。それはきっと毎日絶えない生傷と関わりがあるのだろうけれど、セフィロスに比べ、クラウドの方が幼く小さいし、何より折れそうなほど細くて頼りない体付きが、そこら辺の一般兵には勝てる実力も持っていると解っていても何よりクラウドの、今まで見たことのない大きな透明な蒼い瞳が、ザックスの庇護欲を掻き立ててやまないのだ。
「弟みてえなもんだっつーの!!!」
「それは聞き飽きた」
間髪入れない台詞に、こっちだって耳タコだと言いたい。
確かにクラウドには構いすぎる傾向があると自覚しているし、わざと噂をされる行動もとっている。けれど目の前の上司にはそういう方面で誤解を受けたくはない。
―女性に対して節操なしの自分と違って、目の前の堅物そうな人物はしかし、英雄色を好むというか・・・男女関係なしの節操なしだからだ。これは以前身を持って嫌な経験をさせられた過去に基づく。
過去の経験を振り払う様に、強く同室の少年を思い描いて思うのはやはり。
「何か・・・ほおって置けないんだよアイツは・・・・」
独り言のように言葉が勝手に口から零れ落ちる。



(クラウド・ストライフ、か―――――)


どこか遠くを見て呟くザックスを、セフィロスは静かに見ていた―――





END

2007.01.07up

あとがきもどきはBLOGにて。