真実は心<キミ>の中に〜君が目覚めるとき〜
スラムへと続く8番街の忘れ去られた公園はしんと静まり返り。錆付いたブランコが風に揺られてぎい、ぎいとわずかな音を立てているだけだった。
人影といえばたった一つ。わざわざここへと足を運んできたクラウドの其れのみ。
――確かこの辺りと言っていたが・・・・
あの風呂場にいた男達の話によると、黒マントに身を包んだ男が夜な夜な「セフィロス」を探し回っているそうな。しかも一人ではなく複数目撃されていて。その手の甲にはそれぞれ番号のような模様が刻まれているとの事。
ぶつぶつと独り言のように時には呻く様にそれを口にして徘徊する様は不気味としか言いようのなく、薄気味悪いそいつ等をどうにかしようという話が上がっていなくもないとの話であった。
これまでクラウドも何度か目にしてきた彼らの姿に、住人達が気味悪がるのも分からなくはないと思いつつ、少しだけ哀れにも思うあの姿を夕闇に飲まれた薄暗い公園内のどこかに見あたらないかと隈無く探した。
「――-もしかすると奴等は本当にセフィロスと関係があるのかもしれない。俺、確かめてくる!」
風呂場から戻ったクラウドはヴィンセントに事の顛末を聞かせるなり直ぐにでも出て行こうとせんとばかりに立ち上がった。
「待て。一人で先走っても危険すぎるだろう。・・・・・それに」
お前を誘い出すための罠かもしれない
口に仕掛けた言葉を飲み込むように目を伏せたヴィンセントに不思議そうにクラウドは首をかしげる。
「何?」
「いや。もう日が沈む。今日はひとまず休んで明日にしたらどうだ?」
何でもないとばかりに伏せた視線を上げれば、きょとりとした青年の姿が赤き瞳に映った―――
一方その頃…
「私達が行った後、誰と誰が組んだのかしら?」
宿屋を探し当てたエアリス達はティファの素朴な質問(?)に盛り上がっていた。
「それは勿論、ヴィンセントとクラウドは絶対一緒だろっ!」
ユフィが太鼓判を押したように行った。
「ウフフフフッ、そうかもね」
エアリスが笑った。そしてティファが、お風呂に行く準備をしながら言った。
「二人してよからぬ想像をしているでしょ?ま、気持ちはわかるけどね」
ふふっと軽い笑い声を立てれば、ベッドに陣取ったユフィが両手を頬に沿え悶えるように身体を左右に動かして、ギシギシと建て付けの悪いベッドスプリングを鳴らす。
「うぅ〜ん、禁断の愛ってカ・ン・ジ〜!!!」
「最近ではそうでもないみたいよ?ユフィ」
テファの隣で荷物の整理をしていたエアリスがユフィの振り向いた。
「流行ってるもん」
「そうよ。何せクラウドは以前、セフィロスと付き合ってたし♪」
「ブハ!!!」
「やだ、ユフィベッド汚さないでよ」とテファの台詞に噴出したユフィを突っ込むエアリスの言葉は右から左に流れて言ったらしい。
「それにそこら辺にいる美少年はもしかしたら皆そうかもね…フフッ」
「アンタ、よくそんな事分かるねえ〜」
ティファの爆弾発言にユフィは感心したように呟いけば。
「フフフッ。長年の勘、てやつかしら」
着替えを片手に、気取って格好を付けて言うティファに、三人がひときしり笑いあった。
「さて、ひとまず先にお風呂に入って来るわ」
「は〜い。私達も後で行くね〜」
そしてテファが部屋を出て浴場へと足を運んだ先。
『教えてくれ!黒マントの奴はどこに出るんだ?』
途中の曲がり角で、聞いたことのある声が聞こえてきた。
―――この声は…クラウド?
「何でもいいから詳しく…!」
何故か物隠れに隠れてしまったティファがこっそり視線を声のする方へ向けると、やはりクラウドの特徴ある金色のツンツンヘアーと見知らぬ男達の姿が見えた。
―一緒の宿だったのね!
ふふふと意味ありげな笑みを浮かべたティファ。
しばらくその状態で浸っている間に話が終わったらしい。そんな彼女はクラウドが言ってた気にすべきセリフは忘却の彼方である。
・・・こんな所に知り合いなんているわけないよね?まさかナンパされてるの?!
ソコに結論が到った途端、ギン!と眼を鋭く光らせたテファが、何やら男達と揉めているような険悪な雰囲気を醸し出しているクラウドに目の前の光景を見つつあらぬ妄想を見るという器用なことをし始めた。
『おいおいおい、こりゃあえらい別嬪なお嬢ちゃんだなあ』
『誰がお嬢ちゃんだ!どけ!』
『へっへっへ〜!誰がどくかってな』
絡む男達を避けるようにクラウドが無理やり通り過ぎようとするも、男達はしつこく付きまとう。
うち、一人の男がクラウドの手首を捉えた。
『見ろよ、このほっそい腕!うっは〜!しかも手触りイイ〜!!』
『真っ白い肌だな!こりゃ堪らん!!』
『離せ!!』
『おおっと、逃がすと思ってんのかあ?』
『た〜っぷり可愛がってやるぜえ!!』
(きゃー!クラウドの貞操があ!!!)
『誰がお前らなんかに!!』
しかし予想外に男達の力が強かったのかクラウドはじたばたと手足を動かすが、拘束された腕は振りほどけない。
丁度空き部屋があったのか、男達のうち一人がいやらしい笑みを浮かべながら近くの部屋のドアを開けた。
バタン!
はっ、とその音で妄想から眼が覚めた。同じタイミングでその部屋から出て来た宿泊客と眼が合ったテファは、誤魔化すように笑顔を浮かべた後猛ダッシュで駆け出した。
どうやら自分の世界に浸りすぎていたらしい、きょろきょろと幼馴染を探せばクラウドはとうに男達から離れ、そこから階段へ移動したようだ。
テファは細心の注意を払い、軽い足音を立てながら登っていく金色の頭を追いかけた。
―あれ?この階の廊下は見覚えが…。
ずんずんと振り返りもせずに進んで行ったクラウドが乱暴に開けた部屋の扉をみてテファは驚きに開いた口を両手で覆った。
そこは何と。
ジャスト・ヒーット!!!
彼にとって幸か不幸か。
勿論ティファ達には幸せを齎す巡り合いに、込み上げて来る笑い声を堪えつつ、同士達への報告を迅速にすべしとクラウドが扉を閉じた瞬間に高速で音を殺しつつかつ荒々しく部屋に戻ると言う離れ業をやってのけたのだった。
――何だ、誰もいないじゃないか・・・
その後、うやむやな態度を取り続けるヴィンセントを振り切るようにクラウドは出て来た。
煮え切らない奴に構っているより、折角得た情報を検分する方が有意義だ。何かを言いた気にヴィンセントの視線がクラウドの背中を追いかけたが、それは宿屋の薄っぺらい扉に阻まれて。
慌しく出て行った足音が遠ざかるにつれ、一人残された部屋には遣る瀬無いほど重苦しい沈黙が降立ち、何かを堪えるように拳を握り締めたヴィンセントの姿を部屋を出たクラウドは知ることはなかった。
ひっそりと闇に佇む公園。
きょろきょろ、と視線を動かすも、暗闇に阻まれないソルジャーの視力を持ってしても辺りに人影はおろか、ドブねずみの姿さえ見えないでいる。
・・・忘れ去られた公園でうろついている、確かにそう男は言ったのに、公園内は外灯がブランコをほのかに照らす影しか見えず、肝心の黒マントの姿なぞどこにも見当たらなかった。
それでも諦めが付かず暫く、公園でぼうっと過ごていたのだが、一向に現れる気配のないそれらに諦めて宿へ戻ろうとした、その時。
「・・・?」
違和感を感じて瓦礫に埋もれたアスレチックの方へ視線をやれば。
「!!」
いつの間に現れたのか。
気配を感じなかったなんて。ソルジャーの常人とはかけ離れた感覚を持ったクラウドでなければ、分からなかった。
8番街への出入り口付近に一人と瓦礫のアスレチック付近に二人。外灯の・・・クラウドが座っていたブランコのすぐ傍に、一人。
黒マントの、男達が彷徨うようにあるいは蹲る様に、いた。
「う・・・・リユニ・・・オ・・ン・・・」
「・・・セ・・・・ィロ・・・・さま・・・・・」
「リ・・・ニオン・・・した・・い・・」
さっきまでいなかったはずだ!
誰も、クラウド以外この公園に確かにいなかったのだ。突然現れたとしか言いようのない黒マントの男達。
―一体何処から・・・?
クラウドが警戒態勢を取りつつ、様子を見ながら黒マントの一人に近付いていった。
2007.01.09
あとがきもどきはBLOGにて。
